√28「魔女裁判
私は部屋をもっとよく調べてみる事にした。
何か手がかりがあるかも知れない。私は辺りを見回す、テーブルの上には厚い革張りの本が一冊佇んでいる。
へぇサーニャこんな本読んでいるんだ。
私はその本を手に取った。おそらく題名なのだろう表紙には「if」と書かれている。
そして私は適当にページを捲って読んでみた。
【▲は3……十の位を意味する】
最初の一行を読んだだけで頭が痛くなった。何について書かれているのか私にはさっぱり理解できない。
サーニャこんな難しい勉強してたんだな。そこには私の知らないサーニャがいてちょっぴり悔しかった。
だけど今はこんな事に気を奪われている場合じゃないな。
私は次にベッドを調べる、まだ温かい。
こっこれは!
ハァハァ……こ、これがさーにゃの……!!
ん……さーにゃの匂いが……
「サーニャ!サーニャ!サーニャ!サーニャァァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
あぁああああ……ああ……あっあっー!あぁああああああ!!!サーニャサーニャサーニャァアアァアァアアアア!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ……くんくん
んはぁっ!サーニャの雪のような銀色のの髪をクンカクンカしたいナ!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えタ!モフモフしたいナ!モフモフ!モフモフ!さにゃさにゃモフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
見えない殺人犯に怯えるサーニャかわいかったヨ!!あぁぁああ……あああ……あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
基地内であんな事があって恐かったナサーニャ!あぁあああああ!かわいい!サーニャ!かわいい!あっああぁああ!
ここから逃げよう!いっしょにスオムスに……いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!サーニャはは家族を捜しに行く!!!!あ……ワタシもよく考えたら……
ガ チ レ ズ 大 尉 が 待 っ て い る !! にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ニパァアアアア!!
この!ちきしょー!やめてやる!!兵隊なんか辞め……て……」
え!?見……てる?ミーナ隊長がこっちを見てる?
死んだはずのミーナ隊長がワタシを見てるゾ!隊長がワタシに話があるって言っているゾ!幽霊がワタシに話しかけてるぞ!!
「兵隊を辞めたいのならさっさとお辞めなさい」
だって!!!よかった……いつでも飛んで行くからナ!サーニャ!
「いやっほぉおおおおおおお!!!ワタシにはサーニャがいる!!やったよエル姉!!ひとりでできるもん!!!
黒猫のサーニャアアアアアアアアアアアアアア!!いやぁあああああああああああああああ!!!!あっあんああっああんあサーニャァア!!サ、サーニャ!!サーニャァアアアアアア!!!サーニャァアアアア!!
ううっうぅうう!!ワタシの想いよオラーシャへ届け!!隣の国のサーニャへ届け!」
「何をしてるんですか!」
「おわああああ!!」
私はようやく我に返った。
私は無意識のうちにサーニャのベッドの上で転げまわっていたようだ。
というか布団に顔を擦り付けながら匂いを嗅ぎ回っていた。
ミーナ隊長の幽霊は思わず後ずさったが、私はそれ以上に動揺していた。
「あの隊長、死んだはずじゃ!?」
「死んでいません、生きています!」
「へっ?どゆコト?」
「これは非常時にあなた達隊員がどのような行動を取るかを試すテスト、つまりそういう事です」
テストだって?て事はつまり、ルッキーニが見たって言う血はトマトジュースかなんかで、ミーナ隊長は死んでなくて、
私は大声で兵隊なんか辞めてやると叫んでて……それを全部聞かれてて!
まずいよ何か言い訳しないと。
「ち、違うんだコレは!その、べ、ベッドメイキングを……」
「よぉーくわかりました、この事は全て報告書に記載してスオムス軍本部に届けます、おわかり?」
うぎゃ~隊長わかってないよ、わかられても困るよ。
もっとリアリティーのある言い訳をしないといけないな。
「ベッドの下に殺人犯が逃げ込んデ……ワタシは犯人を取り押さえようとシテ!」
「エイラ……ここ私の部屋なんだけど……」
今度はベットの下から突然サーニャが音もなく現れた。
サーニャだって?て事はつまり、私が部屋に入って来てからずっ~とサーニャはベットの下に隠れていて、
私はクンカクンカしたいとかモフモフしたいとか叫んでて……それを全部聞かれてて!
いゃあああああああああああああん!!うぎぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!サーニャァアアアア!!
「ですから殺人犯なんて最初からいません!おって通達が来るまで自室謹慎を命じます!」
もはやにミーナ隊長のその言葉は私の耳には届いていなかった。
~一週間後~
私の自室謹慎は解かれた。スオムス軍本部からの通達が来たんだろう。
それは今日が私に対する審判の日である事を意味していた。
軍法会議へと向かう私を連行しに来たのはシャーリー大尉だった。
「まさかね、おまえがあんな度胸のある奴だったとはね、あたしは見直したよ」
「だから違うんダッテ、誤解なんダッテ」
「弁明ならここじゃなくて証言台でしろって、まあ結果的にサーニャに想いは伝わったんだ文通でも頼んでみたらどうだ?」
私の除隊を確定事項で話すな!それよりどんな顔して会えばいいんだろう。
サーニャは自分のベッドでのたうち回っていた女とどんな顔で会ってくれるというんだろう。
私は軍人としてではなく女としてのキャリアに大きな傷を残す事について悔いていた。
やがて法廷へと到着する。軍法会議は作戦室ではなく、広場で行われるらしい。壇上にはミーナ隊長が、その周りには隊員全員が集まっていた。
その中にはサーニャもいたけど、うつむいていてその表情までは読み取れなかった。
これじゃまるで公開処刑だな。ミーナ隊長に呼ばれ私は死刑台を登る。
仲間の冷たい視線が背中に突き刺さるように思われる。これは錯覚だろうか。
目の前のミーナ隊長の顔は心なしかひきつっているように思える、当然だな。
そして私の罪状が読み上げられる。
「貴君は緊迫した状況下に於いて……えぇ……」
ミーナ隊長は言い淀み、一呼吸置くと頭を抱えながら一気に続きを読み上げた。
「‘スオムス軍人’として誇るべき行動を取った事をここに賞し、スオムス名誉百合勲章を授与するものとする」
「ホヘ?」
スオムスの魔女って……などと仲間の呆れた視線が背中に突き刺さるように思われる。これは錯覚じゃないだろうな。
パチパチと乾いた拍手が響いてるんだから。
「つまりエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉、これからもよろしく頼むわね」
ミーナ隊長の言葉で私もみんなも事態の結末にようやく気付いた。
「じゃあ……じゃあワタシはまだココにいてもいいってコト?」
「ええ」
「またミンナと一緒に戦えるってコト?」
「ええそうよ」
私が後ろを振り返ると壇上に仲間のみんなが駆け上がって来てくれていた。
そして私は揉みくちゃにされたあげく壇上から叩き落とされた。
起き上がるとその先にポツンと一人サーニャが立っていた。
どんな顔して会えばいいんだろう、どんな顔で会ってくれるというんだろう。
そんな事を考えていたけど私とサーニャは二人揃ってくちゃくちゃに泣いていた。
「あのナ、サーニャこの前のアレはナ……え~っと」
「うんいいのわかってるよ、あのねエイラ、またベッドメイキングして……くれる?」
私はこくりと頷いた。
仲間のニヤニヤした視線が背中に突き刺さるように思われる。たぶんこれも錯覚じゃないんだろうな。
エンディンクNo.03「魔女裁判」
~おしまい~