√29「終焉の淵」
サーニャが……いない!
いったいどういう事なんだ!
私はもう一度部屋の中を見回す。
するとテーブルの上には厚い革張りの本が一冊佇んでいた。
……あれ?
さっき部屋を調べた時、こんな本あったかな?第一サーニャこんな本持っていたっけ?
とにかく今は何かしらの手がかりが欲しい、私はその本を手に取った。
おそらく題名なのだろう表紙には「if」と書かれている。
私は適当にページを捲って読んでみた。
【■は4……一の位を意味する】
何について書かれているのか私にはさっぱり理解できない。それも当然か、こういうのは最初から読まなきゃ駄目だよな。
最初のページを捲るとそこには一編の詩が綴られていた。
~プロローグ~
未来はまるでわたぐものよう
ふわふわしていて心地よく
ぼんやりとして触れることは叶わない
でもね、ながめているだけでは置いていかれるもの
だからあなたはとびつづけるの、この広い空を
あなたに出会うその日のために……
愛しのあなたへ捧ぐ詩
私は知っている……この詩を。
何処で聴いたのかまでは覚えてないけど確かに知っているんだ。
私は好奇心に駆られ更に読み進める。
それはある少女の物語だった。
描写される少女の容姿が自分に似ている事から私は彼女に親近感を抱いていた。
本の中の少女は起床する、そしておもむろにタロット占いを始めたのだ。
益々私そっくりだな。
少女は引き当てる「塔」のカードを、逆位置だ。
……偶然だよね。
そして少女はパントリーで新たな登場人物と出会う。
説明によると、どうやら一番の親友らしい。
「オハヨーペリーヌ、サーニャはまだ起きてこないノカ?」
少女はそんな台詞を口にする。
ペリーヌ?ペリーヌだって!なんでペリーヌなんかが一番の親友なんだよ!
……あれ?なぜ登場人物にペリーヌの名前が付いてるんだ?
それにサーニャの名前まで!?
この本は何かがおかしい、そもそも印刷ではなく、見覚えのある誰かの肉筆で書かれているんだから。
私の不安は恐怖へと変わりつつあった。けれどもページを捲る私の手は止まらない。
それからいきなり少女の惚気た回想シーンが始まった。
何やってんだよこいつ……
そして得体の識れない生物と遭遇したと思ったら、少女はある場所へと向っていた。
もしかして……私は震える手でページを捲る。
私の予想通り少女はその本を見つけるのだった。
本の中の少女は手にした本を読み始めた。
やがて少女の心理描写が綴られ始める。好奇心、親近感、喜びと不安そして恐怖。
その感情はどれも私がこの本を読んで抱いた感情そのものを辿っていた。
恐怖に耐えかねた少女はその本を閉じ、辺りを見回してはははっと笑った。
つられて私も本を閉じる。もはや私の恐怖も限界に達していたんだ。
その後あの少女はどうなったんだろう?そんなの私の知ったとこじゃない。
そんな事を考えている最中だった。
何者かの視線を感じる、その者の感情までがこちらに伝わってくる。
敵意じゃない恐怖だ、ひどく怯えている者の視線だ。
はははっ、まるで今の私みたいだな……私みたい?
……!
私はこれから起こる数秒後の未来に気付いた。
私は急いで「if」という名の本へと手を延ばす。
間に合わない、わかっていた事だった。
本を開くその刹那、深い闇が訪れた。
エンディンクNo.04「終焉の淵」
~END~