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√35「おのぞみの結末」


私は悩んだ挙句、サーニャにキスをしようとした。

「イデッ」
「いたっ……」

おでこがぶつかった……
どこまでヘタレなんだ私!
キスなんて……するのはじめてだもんな。しかもストライカー履きながらなんて。
ほらサーニャが笑ってるじゃんか、と言うより微笑んでる?

「ごめんワタシ……した事ないンダ……キス」
「うふ、こうやるの……」

サーニャがその腕を私の首元に絡めてきた。サーニャが首を傾けそっと唇を寄せる。

……
天使の祝福を受ける時ってこんな感じなのかな。
そこからの記憶が抜け落ちていた。

「ごめんねエイラ……無理させちゃって」
「ごめんなサーニャ上手くできなクテ」
「ううん、そういう意味じゃないの……あなたが好きなのは私じゃなくてあっちの世界のサーニャなんだもんね」
「そんなコトないサ!どこの世界なんかじゃナイ!ワタシか好きなのはサーニャ、そのコトには変わりないヨ」
「うん」

この気持ちに嘘はない、私にとってサーニャはサーニャだ、それ以外の何者でもないんだから。
そしてサーニャの腕が解けるのを確認すると、今迄様子を覘っていた仲間達が集まって来る。
こっちのみんなとのお別れの時間がやって来た。

「それじゃ達者でな」
「頼んだわよ」
「ハイ!」

「あっあなたがどうしてもと仰るなら眼鏡……かけて差し上げてもよろしくてよ、伊達ですけどね」
「あぁ似合うと思うナ」

「まさか時空の壁突破一番乗りをエイラに奪われるとわな、まぁお前だったら仕方ねーか」
「あっちのあたしによろしくね~ん‘先にないすばでぃになるのはあたしの方だかんね’って」
「伝えるヨ」

「おまえは何処に行っても私の妹には変わりない、憶えておいてくれ」
「あっちでもエロい事ばっかすんな~」
「しねーヨ」

「私のおっぱいは何処に行ってもエイラさんの物ですから!」
「エイラさんのおっぱいは何処に行っても私の物ですから!」
「ちょっとリーネ何の事ダ!宮藤胸を揉むナ!」

帰る直前になり重大な事実が発覚した、時空間のズレが知らない間にまた進んでいた。
こっちのエイラはかなりエロいらしい。何やっちゃってくれてるんだ、こっちの私!
これはどうりで……サーニャもこれだけ積極的になるわけだ。

「エイラ……」
「サーニャ……」

そして私とサーニャはもう一度キスをした。こっちのサーニャとの二度目で最後のキスだった。

~突入~
私は渦の中心座標に進路を向け飛び込んだ。中心に近付くごとに潮汐力は強くなっていった。
到着時よりも亀裂は拡大している、そうかキスするかしないか葛藤してる隙に時間が経過していたんだ。
これじゃシールドを形成していても、亀裂を越える前に体が砕かれそうだ。
もう駄目だ、あきらめかけたその瞬間、私の体は加速を始めた。
何故だかズボンに温もりを感じる。

「エイラには私がついているよ……」
「サーニャ!」

サーニャが直結して私を後押してくれていた。
四機の魔導エンジンが唸りを上げる。

「サーニャ!早く戻るンダ!」
「いやっエイラを無事に送り届けるまで……私、平気だから」

私の体は次第によじれだす、どうやら亀裂に到達したようだ。
サーニャは?サーニャは無事なのか?

「エイラ!あなたに逢えて思い出したの……あの頃の気持ち、私……あなたが好き!離れたくな……」

次第にサーニャの体が引き剥がされて行く。
そして私は意識を失った。

~ドーバー海峡上空~
私は落下していた、目の前に海面が迫る寸前でなんとか姿勢を保った。
辺りを見回したがさっきまでいた仲間のみんながいない。
どうやら無事に元の世界に戻れたようだな。でも亀裂は?亀裂は塞がったのか?
私は頭上を確認する、何かが落ちてくる、人だ!私は慌てて救助に向った。

「大丈夫カ?しっかりし……サーニャ!」
「ごめんねエイラ……来ちゃった」
「来ちゃったッテもしかして……あっちのサーニャ!?」
「うん」
「エェェェー!」

どうする?どうする?どうする?
そうだ亀裂は?時空の歪みは感じない。私の頭痛は続いていたけどこれは別の原因だ。
どうやら亀裂は無事消滅したらしい……って事は、ここにいるサーニャはあっちの世界に帰れないって事だ。
問題はそれだけじゃない、時空間の修復作用が働くはずだ。
つまりあっちのサーニャがここにいるって事はこの世界のサーニャの存在が消えてしまう事を意味している。
先程まで感じていた幸福の副作用は思わぬ所に生じていた。この世に旨い話など存在しないんだ。
別世界のサーニャに恋してしまったばっかりに、私は二人のサーニャの運命を大きく変えてしまったんだ。

「やっぱり私……来ちゃいけなかったんだね」
「ソンナコトナイ!ワタシがサーニャを好きだって気持ちは本当ダヨ」
「ありがとうエイラ……」

サーニャは私に抱きつき泣き出した。たぶんサーニャも気付いてしまったんだな私の顔色の意味を。
あの時私はこの娘の気持ちを受けとめた、そしてこの娘は自分の世界を捨てて私を選んでくれたんだ。
私はこの娘を幸せにしなきゃいけない義務がある。いや義務じゃない願望だ!

「サーニャ、ここはあっちでもこっちでもナイ今生まれたばかりの……私達の世界ダ!」
「私達の……世界?」
「ソウサ!これから二人で創ってくンダ」
「うん!」

~ハンガー~
基地に到着すると隊員みんながハンガーまで出迎えてくれた。
みんなこんなに心配してくれてたんだ、私の目は潤んだ。

「ミンナ!タダイ……ゲフゥ」
「テメーどの面下げて此処にいやがる!(ズコーン)」

おかえりの言葉もなく、いきなりシャーリー大尉のドロップキックが飛んで来る。
私に弁明の余地はなく他のみんなを加えた矢継ぎ早の攻めが続いた。

「シャーリー!エイラなんかやっつけちゃえ~(がし~ん)」
「私にあんな事して、その上芳佳ちゃんを誘惑するだなんてヒドイです(バシン)」
「エイラさん逃がしませんよ!エイラさんのおっぱいは私の物です!(むぎゅ)」
「お姉ちゃんと呼べば何をやらかしても許されると思うな(ドス)」
「揉み逃げは卑怯だよね~倍返しさせて貰うよ~(むぎゅむぎゅ)」
「坂本少佐にだってあんな事、あんな事(げしげし)」
「覚悟は出来ているだろうな(ザクリ)」
「おわかりよね?(♪♪♪)」

なんなんだ!いきなりタコ殴りって!熱烈歓迎?愛情の裏返し?そーじゃねーよ!
奴だ、もう一人のエイラがこっちで何かやらかしたんだ。
私がこの世界に戻って来て入れ代わりに消えたもんだから、その矛先が私に向いているんだ。
頼む、サーニャからも説明してくれ!

「あなた……誰?」
「サーニャ!それはないダロ!エイラダヨ!」
「そうじゃなくてエイラの……後ろ」
「あの……サーニャです……」
「そうそう私の後ろにいるのはサーニャに決まってんダロ、何言ってンダ?サーニャ……サーニャ?」

え?後ろにいるのがサーニャで、じゃあ私が最初に話かけたのは?え~!

「サーニャガ……」
『二人いる!』
「あの……はじめまして」
「はじめまして……」

隊員みんなに半殺しにされ薄れ行く意識の中で、私は残りの命を削りながら今迄の事について説明した。
時空の歪みの事、あっちの世界の事、もう一人のエイラの事について。
みんなは二人のサーニャを目の前に否応なしに納得し私の冤罪も無事晴れた。
その後の記憶はない、私の命は尽きる寸前だった。

~自室~
「私なんかもうキスしてるんだからね二回も!それも唇に!」
「キスくらいでいい気にならないで!私なんてエイラが寝てる隙にもう×××しちゃってるんだから」
「×××だなんてそんな!まだ私だってしてないのに!」
「だって仕方ないじゃない!こっちのエイラは私が誘っても何もしてくれないんだもん!」
「そこがキュンとくるんじゃない!淫乱雌豚はおっぱい魔神の家畜にでもなったらどうかしら?ぶひぶひ」
「うっさい!泥棒猫は黙ってて!私のエイラに変な臭いつけないでよ!」

……
「ハッ!?」
『ZZZ……』

~起床~
私は目覚める。私は夢をみていた。
何故かサーニャが双子になっていて、二人が言い争っている。確かそんな夢だった。
サーニャが出てくるんだから吉夢に違いないんだけど悪夢だったような……まあ双子って時点で変な夢だったな。

寝返りをうつと目の前にサーニャの寝顔が現れた。
あわわわわっサーニャ!なんでこんなとこにいるんだ!また部屋間違えたのか?
うぅ~そっそんな油断しきった顔しちゃってると私だって……
だめだ!だめだ!サーニャにそんな事出来ないだろ!
私はもう一度寝返りをうってサーニャに背を向ける。
目の前にサーニャの寝顔が現れた……あわわわわっ。
もう一度寝返りをうつ、サーニャの寝顔が現れる。
サーニャが……二人いる!

私達三人は川の字になって寝ていた。どうしていいのかわからずに私は天井を見つめた。
夢の続きなの?違う身体中がズキズキ痛むんだから。そうか、あの後私はここに運ばれてそのまま寝ちゃったんだ。
じゃあサーニャが二人いるってのもやっぱり現実なんだな。
あ~私って世界一幸福な美少女ぉ~♪
あっ世界一の美少女はサーニャとサーニャだから、私は世界一幸福で世界で三番目の美少女だな♪

でもどうして二人のサーニャが同じ世界に存在できるんだろう?
私がこっちに来てもう一人のエイラは消えた。同じ様にどちらかのサーニャが消えなければこの世界のバランスは崩壊するというのに。
何か別の方法でバランスを保っているのかな。

それよりも今考えなきゃいけないのは私自身の事だ。
もう一人のエイラは、はてしなくエロかった。奴は他人じゃないもう一人の私だ。
自分でもわかってるんだ、あれは私自身にも潜んでいる闇の人格だって事が。

「うぅ~んエイラぁ~……むにゃむにゃ」
「ちょっとサーニャ……」

右側のサーニャが寝惚けたふりして抱きついて来た。震える子供の様に私の右腕にしがみついている。
今度は左側のサーニャがそっと手を握って来た。合わされた手に力がこめられる。
起きてたんだな二人とも寝たふり続けてるけどさ。なんかいじらしい……

そうだ世界一幸福な美少女だなんてうかれていられないんだ。
欲望に流された結果、私はこの世界のサーニャを失いかけたばかりじゃないか。
そしてもう一人のエイラは一番大切な人を失った。まぁこいつにとって本当にサーニャが一番大切な人だったかは怪しい所だけど。
私はこの娘達に対して誠実じゃなければいけない、そうでなければ私も報いを受けるんだろうな。
他の娘への浮気だけじゃない、いずれはどちらか一人のサーニャを選ばなきゃならない、そういう意味だ。

でも……どっちのサーニャも大好きだなんてやっぱり駄目かな……えへへ駄目じゃないよね、ねえどう思うダニエル?
‘おまえの言う通りだ’
やっぱり!やっぱりダニエルもそう思うか、親友のおまえがそう言うんだから間違いないな!
私は枕越しに本棚横にある藍色の頭像を見つめ……いない、サーニャの次に大切な、親友ダニエルがいない!
人には言えない悩みを顔色一つ変えずに聞いてくたダニエル、嬉しい時も悲しい時もいつも傍にいてくれたダニエル。
そのダニエルがいない!ダニエルが家出した!まさか誘拐されたなんて事は!?
あぁどこへ行ってしまったんだ!帰って来ておくれ、私の親友、愛しのダニエル!

審判は既に下されていた。

エンディンクNo.09「おのぞみの結末」
~おしまい~


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