if


√36「イノセント・デイズ」


今度こそ間違いない、怪しい行動を取った奴がいるんダナ。

私は風呂場での情景を思い浮かべた。やっぱりおかしい、あの場にいるべき人物がいない。
だけどこんな物じゃまだ確証とは言えないな。何か証拠を摘まないと。
サーニャの事も気掛かりだけどサーニャを巻き込むわけにはいかないな。
私は心当たりのある場所へと直行した。

~ハンガー~
私は隊員のストライカーを確認する。
やっぱりあの人のストライカーだけない!とするとあの人は……あの時点で既に。
そしてルッキーニがミーナ隊長を発見した時には何か別の物に擬態してやり過ごしたんだろう。
これは予想を上回る深刻な事態になりそうだ急がなきゃ。私はあの人、いやあの人と入れ替わったモノがいると思われる病室へと向った。

~病室~
病室に入るとベッドの上にはミーナ隊長が、それに付き添い坂本少佐と宮藤がいた。

「宮藤、バルクホルン大尉ハ?」
「えっとミーナさんの容体が安定したんでみんなに知らせに行きましたけど、どうしたんですエイラさん」
バルクホルン大尉は不在か……計算が狂ったな、なら私達でなんとかしないと。

「宮藤、少佐から離レロ!そいつは少佐じゃナイ、おそらく……擬態したネウロイダ!そうですヨネ‘少佐’?」
坂本少佐からの返事はない。
「何言ってるんですエイラさん、どういう事なんですか!?」
「こういう事ダ!」

私は短銃に魔力を込め解放つ。
着弾点が歪み、ヘキサゴンを型取った少佐の偽りの皮膚が剥がれ落ちる。中からはハニカム構造をした漆黒の肉体が現れた。

「どうしたんですか?坂本さん!坂本さん!」
「宮藤ソイツは敵ダ、ソイツから離レロ!」

早まったか、宮藤が状況を把握してから仕掛けるべきだったな。宮藤はなおも坂本少佐の偽物へ語り続ける。
ネウロイの右腕がビーム状の扶桑刀へと変貌し、宮藤へと振り下ろされようとしていた。
「アブナイ、宮藤!」
呆然と立ち尽くす宮藤を庇ったはいいが扶桑刀が私の肩口を焼き切る。
私の傷口を見て少しは現状を把握したのか宮藤がシールドを形成した。

「坂本さん!こんな事もうやめて下さい!」
だが未だに宮藤は現実を受け入れようとはしない、シールド越しに偽物への問い掛けは続けられた。
私は弾を撃ち続けるが短銃に込められる魔力などたかが知れている、その上傷の痛みが追い打ちをかけていた。
それ以上に問題なのは奴の胸部・腹部・脳天、狙撃部のどれもが偽りの急所でしかないという事だった。
手立てはないのか……

「はい、はい、でも……わかりました!」
「宮藤?宮藤ドウシタ!ダレと話てル?」
「坂本さんが、坂本さんが!真実を見極めろって、自分のその目で見極めろって私に!」

宮藤が何を言っているのか信じられなかったが、それ以上に信じざるをえない光景を目にした。
魔眼だ、魔眼が宮藤の右目に宿っていた。あれはおそらく坂本少佐の魔眼だ。

「エイラさん、コアは右目です!右目を狙って下さい!」
「了解ダ、宮藤!」
私は偽物の眼帯目がけて引き金を引く……くそっ弾切れだ。こんな時に!
宮藤の想いが、坂本少佐の意志が無になる。

《パーン》
その時、乾いた銃声が響いた。ミーナ隊長がベッドから起き上がっていた。
ミーナ隊長の放った一撃は的確にコアを貫き、坂本少佐の幻影を消し去った。

「助かったヨ、ミーナ隊長」
「でも大丈夫なんですかミーナさん?起き上がったりして」
「ええ私にも聞こえたのよ……美緒の声が、そして怒られちやったわ‘何寝てるんだ’ってね」

「でも私わからないんです何でネウロイはミーナさんを狙ったんですか、基地に潜り込んでまで」
「たぶん坂本少佐の記憶からこの隊の中枢、つまり何がコアなのかを読み取ったんダナ」
「そうですね、私達……いいえ坂本さんにとってミーナさんは特別な存在ですもんね」
「美緒……あなたって人は……」

そう言いながらミーナ隊長はその場に泣き崩れた。
それにつられて宮藤も泣き出し、私は涙を堪えてそっと宮藤の肩を抱いた。

~一年後~
私はあの日の出来事を振り返っていた。一人展望台に登り空を眺めていたら自然とそんな気分になったからだ。
あの後捜索が行なわれたが結局坂本少佐は帰って来なかった。
私は自分を責め立てた、私が出撃しなかったばかりにと。いいや私だけじゃない誰もが自分を責め、誰もが他を責めなかった。

そしてあれから私達もいろいろ変わった。
ミーナ隊長は現役を退いたが戦う事は辞めなかった。軍の中枢に入り彼女の戦いを続けている。

新たな隊長にはバルクホルン中佐が、そして副官にはシャーリー少佐が任命された。
二人は前任に負けない名コンビだと私の目には映る。
喧嘩の目撃回数は前任者達の比じゃないけど、私は少し羨ましく思う。

ペリーヌは宮藤との朝連を毎日欠かしていない。坂本大佐を救えなかった自分が許せていないのか、別の理由があるのかまでは知らないが。
その宮藤の成長は凄まじい、特に著しいのはその天然タラシっぷりだ。笑い方まで坂本大佐に似て来た事だけは頂けない。
ルッキーニは宮藤にロックオンされている、理由は当然その胸だ。僅か一年で私すら追い抜かれた、ロマーニャ魔女の恐ろしさを知った。
リーネは思わぬ伏兵の出現に困惑気味だ。サーニャと二人でいる事も多く見かける。
問い詰めると「恋愛相談に付き合って貰っているだけですけど、内容までは教えられません」と笑顔で言われた。
相談相手が恋愛対象になんて……ないよな!?

サーニャは。
サーニャは自然とみんなの輪に溶け込むようになった。
私にもエースとしての責任が増え、自ずとサーニャと一緒にいる時間が減っていった頃からだ。
私は気付いてしまった、皮肉にも今まで私の独占欲がサーニャを孤独にしていた事を。

ある日サーニャが語ってくれた「私……負けたくないから……私も強くなるね」と。
具体的な意味はよくはわからないけど、たぶんサーニャは新しい一歩を踏み出しているんだ。

そして私はヘタレのままだ、サーニャに見合う私を求めて今も頭を悩ませている最中なんだから。
ただこれだけは言えるサーニャの笑顔を守る事こそが私の使命だ、その気持ちは今もそしてこれからも決して変わる事はない。

「なぁ~に考えてんの?」
「うわっナンダ!?エーリカかよ、別に何もナ」

寝そべりながら見上げていたその空を、エーリカの無邪気な顔が覆った。
一人忘れてた……エーリカこいつだけは何一つ変わってない、そう振る舞っているだけかも知れないが昔のままだ。
二枚看板のエースとなり、こいつとロッテを組む事も増えたが未だに謎の多い奴だ。

「何考えてたか当ててみせようか……昔の事でしょ?」
「なっ何でわかんダヨ!」
「なんとなくねぇ~なんてね、今日は久々にミーナが基地に来るからさ~みんなも同じ事考えてるかもね」
「あぁそうダナ」

本当は半分当り、半分外れなんだけどな。
今私は大人と子供の境界線を漂っている、これから私達はどう変わっていくんだろう。
モラトリアムに彩られた日々を懐かしく思いながらも私はそんな事を考えていた。
見上げた空には雲がその形を変えながら流れて行き、そしてまた新しい雲が流れて来ては消えて行った。

「そうそう、そんでそのミーナが新しい教官連れて来るんだってさ」
「教官!?私達本部から信用されてないって事カヨ、どんな奴ナンダ?」
「さぁ~現役引退した元魔女らしいけど詳しくはわたしもわかんない」

「へぇ~ドコ出身なんだろナ」
「え~っとね~確かね……扶桑……だったかな?」

エンディンクNo.10「イノセント・デイズ」

初めに戻る(√01)

戻る

「if」メニューへ
ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ