もしバルクホルンとハルトマンが二人で地下に行っていたら
こつこつ――と、地下廊下を歩く二人分の足音だけが響く。
電灯がところどころ点いているが、あまり明るくはない。
「なあ、どこだここ」
「地下。」
私はかなりわくわくしていた。どうやら宮藤とリーネが人骨を見たらしい。
そんな興味深いことをいうものだから、私は墓地云々を言い出した者として、確認することにしたんだ。
…トゥルーデを連れて。
いざとなったらその腕力にすがろうと思っていたのに、どうやらこの人は頼りにならないようで、さっきから同じことばかり言っている。
「エーリカ、どこだよここは」
「だから、地下だってば」
暗めの電灯と、持ってきた懐中電灯ふたつで、どうにか真っ暗闇だけは避けられている。
こつこつ。
歩きながら私はふと、気づいた。
「トゥルーデ」
「うひ」
…なんだいまの返事。まあいいや、続けよう。
「ここさ、見覚えない?」
「…どういう意味だ」
ピタリと足をとめるトゥルーデ。とりあえず私も倣った。
「さっきも同じところ通らなかったっけ、って言ってるの」
「――え゛?」
なんとも間抜けな返事ですこと。
ちょっとペリーヌっぽい口調で思ってから、また歩きだした。
「まぁ、もうちょっと歩いてみよっか」
「…ああ」
こつこつ。
少し足早になる私のあとについてくるトゥルーデ。
やっぱり、さっきも通ったなここ。
道もゆるやかなカーブになってるし。…ん? あ。回廊ってことか。
仕方ない。入ってきた場所あるいは別の場所へつづく道をみつけるまで、このまま進むとしよう。
左右を慎重に見て、扉や道なんかがないか探した。
突然、後ろから軽く引っ張られるような感覚。
後ろにいるのはトゥルーデだけ。足を進めながら、私は無言で振り返った。
見れば私のシャツの裾を、トゥルーデが片手でつかんでいるではないか。
しかもうつむいていて、私が見ていることに気づいていない。
つまりトゥルーデは、足元以外を見ないようにしてるわけだ。
「トゥルーデ、もしかして怖い?」
「…はっ! いや、そんなことはない」
とっさに私のシャツから手をはなし、否定してるけど、ばればれだよ。
まったく。怖がりさんだなあトゥルーデは。
こつこつ。
「あれ、なんか穴っぽいもの発見」
「あな?」
「うん。ほら、壁んとこ」
「本当だ」
穴の近くまでいくと、どうやらもっと下へとつづいているらしかった。
「いってみるか」
「いい。私は行かないぞ」
「…じゃあトゥルーデここで1人で待ってる?」
「…一緒にいこう」
さすがのセクシー魔法少女エーリカちゃんでも1人でこの中へ行くのはちょっといやだ。
トゥルーデは頑として先には行かないつもりのようなのでまた私が先をいくことになった。
はしごを降りきるとそこはなにやら妙な空間で、やたらと物が置いてあった。
「なんだここ」
「…物置か?」
「リーネと宮藤がアレ見たっていうの、ここだったりして」
「アレ…って」
「ヒトの骨」
わざと怖い口調で言ってみると、トゥルーデはシャレにならない表情で黙り込んでしまった。
ていうか。マジでシャレなんないかもしれない。
これだけ物があれば、その中になにがあってもおかしくない。
現に、ここにあるブツたちには、統一性がまったくないのだ。
ガラクタに懐中電灯を照らしながら掘り起こしてみるも、やっぱり出てくるのはガラクタのみ。
なんだ…、とがっかりしていると。
「…う、わああああああっ!!!?」
かなりの音量が耳に入ってきた。
「トゥルーデ?」
「え…エ…エーリカっ」
トゥルーデの慌てようがハンパじゃない。差した指ががたがた震えている。
差した指…?
その先を私が確認するより先に、トゥルーデはもんのすごい速さではしごを登っていった。
「ちょ、ちょっとまってよ! どうしたっていうの」
心臓をばくばくさせながら私は、トゥルーデが差していた方向にゆっくり目を向ける。
目から受けた刺激を脳が処理し、それが何であるかを認識するより先に、私は叫んでいた。
腰がぬけるかと思った。
“そこ”には、あったのだ。あってしまった。
ヒトの頭の骨が…。目玉のところが穴になっていて…
――そこまでしか見ていない。
そんなものをじろじろ観察できるほどの勇気なんて持ち合わせていないんだ、私は!
大急ぎではしごを登りきって、少しだけほっとした。
「トゥルーデ…」
「すまない、エーリカ」
「ばか!なんでおいてくの!」
「すまない…」
確かにトゥルーデは怖かったかもだけどさ、だからって私を置いていかないでよ。
今までは二人だったから大丈夫だったけど、一人になったら私だって怖いに決まってるんだから。
そんなことより、今はとにかく地上にでたい。
私もトゥルーデも、気分は最悪なんだ。
「はやく出よ、こんなとこ」
「ああ…もちろんだ」
出口を探し、二人並んで歩きだした。
知らずのうちに、またトゥルーデは私の服の裾をつかんでいた。
「ねぇ」
「あ、悪い…」
さっきと同じように手をはなそうとするから。
「手、つなご?」
トゥルーデは、なにも言わずに私の手を握った。
互いのぬくもりを感じて、とても安心する。
二人の手はいつのまにか恋人つなぎになっていて、光にたどりついたときにはもう、恐怖なんて忘れていた。