エイラ観察日記~となりのエイラ~
エイラがヤバい
なにがヤバいかっていろいろと。
前はそんなことしなかったのにだんだん言動に制限が無くなってきている。
「サーニャー」
こうやって意味なく呼ぶことも増えた。
なぁに、って返すと呼んだだけ、と返ってきて、いつしかまた繰り返す。
それだけならまだ可愛いほうだったが、最近ではみんなが寝静まっている時、つまり私が夜間哨戒で基地にいないときに毎晩すすり泣いていたらしい。
あんまりそれがひどいため、現在の夜間哨戒は私とロッテを組んで任務に当たっている。
ミーナ中佐はこのままでは部隊の士気に関わる…いや、いつか大変面倒な事態が起こりかねないとし、このノートを「エイラ観察日記」としてエイラの観察及び更生を行っていき、経過を記していくよう私サーニャ・V・リトヴャクに命じた。
―――観察1日目―――
夜間哨戒明けのふらふらの頭で私だけ呼ばれてノートを渡され、へろへろと敬礼を返したのがついさっきのこと。
ミーナ中佐はなにか深刻な顔をされていたけど、なんとなくエイラにくっついてなにかしていればいい、ということと、そのことについて日記を書けばよい、ということを聞いてつい口元が緩んでしまった。
おしおきとかげんこつとか不穏な言葉が聞こえた気がするけど、話の中身は最近のエイラによる普段よりも奇抜な行動をどうにかしてくれっていう頼みのようだ。だからそれを受けるのはエイラのはず。なので聞かなかったことにする。
ノートを持ってよろよろと私はいつものようにエイラの部屋に転がり込む。
服を脱ぎ捨てベッドに飛び込もうとすると、夜間哨戒を終えた後、先に戻ったエイラが腕を広げて待ちかまえていた。満点の笑顔を見せている。
仕方ないので倒れながらお腹に1発いれておく。胸に飛び込んだときに目がキラリと光ったので割と強めに。
「ぐふぅっ!キ、今日だけ…ダカン…ナ……」
普段と同じ台詞が聞こえたので安心して気絶したエイラの上で眠る。今日はエイラとサウナでおしゃべりしてる夢を見た。
昼食の時間。気がついたエイラが私を抱きしめ耳元でハアハアと息を荒げつつ起こしてくれた。
が、一向に私を離す気配がなく魔力による力の増幅で脱出。昼食に向かう。
昼食は私がいつも寝ぼけているのでエイラが食べさせてくれる。これはいつの間にか決まっていたからいいのだが、廊下を歩いているとぴったりとひっついてくる。
そして部屋に着き扉を開け私を中にいれると、シャーロットさんもびっくりな速度で扉を閉めて私よりも先にベッドにダイブ。腕を広げて待ちかまえている。
なんだこれは
とりあえず朝と同じくボディブローを決め、のびたエイラの上に横になって今朝の中佐の話を思い出す。
最近お前の旦那の奇行が目立つからどうにかしろよ。って言っていた。まさかそれがこんなにアグレッシヴな行動だとは思わなかった。
いや、実は眠くてあまり意識してなかっただけでこの行動がここ数日続いているのには気づいている。
確かにこれは隊の規律を乱すだろう。ミーナ中佐が頭を抱えるのもわかる気がする。
このままではヘタレの名を欲しいままにしてきたエイラではなくなってしまうだろう。ヘタレクイーンの冠もスオムスに返さなければならない。
私が治さないと。
ひとまず名前を呼びながらのびているエイラの頬をぺちぺち叩いて起こす。…だんだん恍惚とした表情になってきた。
思いっきりデコピン。
「ィイテッ!こらサーニャ!ヒドいじゃないカー!ってウワァ!!」
起きた。後半驚いてるのは多分私がすぐ目の前にいたからだろう。そんなことより。
「ねえ、エイラ。最近なにか変なことあった?嫌なことでもあったの?」
「エ?いや、なにもないケド?」
「辛いこととか、悩んでることは?」
「辛いことなんかナイヨ。サーニャがそばにいてくれるからナ。悩みは…ずっとサーニャのこと考えてル」
「そ、そう……」
これは重傷だ…。
本格的にヘタレクイーンの座をスオムスのエルマさんという人に送ることを考えた方がいいかもしれない。いや、エルマさんは臆病なだけだったかな?
じゃなくて本当にこれはヤバい。
ここまでひどくなった原因はなんだろう?
被撃墜?そんなはずはない。被弾すらしないのがエイラの力であり、すごいところ。というか最近の任務はずっと私と一緒だったし…。
まさかなにか拾い食いを…?
そんな馬鹿な使い魔を従えている訳ではないし、エイラがよつんばいで物を食べる訳な…い……ちょっと可愛いカモ…。
「サーニャ?おーい、サーニャー?」
「はー……。…え?な、なぁに?」
「サーニャこそボーっとして大丈夫カ?眠くないカ?」
「う、うん、大丈夫だよ」
「サーニャ、なにか辛かったり苦しかったりしたら私に言うんダゾ?ツンツンメガネなんか気にスンナ。ナ?」
よつんばいエイラを想像して脳内でいろいろしてあげていたら逆に心配されてしまった。この辺の言葉はいつものエイラと一緒だ。
だけどいくら考えても原因がわからない。
でもこんなにひどいとなるとなにをすればいいかもわからない。
「なぁサーニャ。そろそろ眠らないト。夜間哨戒のとき眠いゾ?」
「…そうだね。うん、私眠るね。おやすみ、エイラ」
「アァ、オヤスミ(私の胸ニ、サーニャが…)」
「あ、ごめんね。重かったよね」
「イイヤ全然!サーニャが重いわけないダロ!むしろもっと乗ってクレ!もっと私にくっついてクレ!」
「(あれ?積極的なのもなかなか…)」
「ン?なんか言ったカ?」
「ううん、なんでもない。じゃあ遠慮なく」
「オオ、どんどんノレー」
「うん。じゃあおやすみ」
「オヤスミ、サーニャ」
―――――――
こうしてエイラに抱きしめられたまま眠ってしまった訳だけど…。なにも原因がわかりません。
でも優しく暖かく包まれていつもより気持ちよく眠れました。
その後の夜間哨戒でもどこか紳士的で、優しくて、だけどもアグレッシヴなエイラがいました。
そして今日意識をもった上で改めて今のエイラを見た感想は、ミーナ中佐には悪いけれどもう少し積極的なエイラを楽しんでみたいと思いました。ごめんなさい。
しかし、どちらにせよなにも解決法がわからないので、結局はこの状態がしばらく続きそうです。
今後は原因を探るためにいろいろなことを試して、エイラであそ…じゃなく、エイラの反応を見て調べていこうと思います。
それにしても、狐の姿になったエイラも可愛かったな…。
END