第28手 くっつく・二人用ストライカーで


「これは…なんだ?」

目の前に存在している現実に対して、私の口からは、ただそれだけの言葉が零れ落ちた。
いつも通り、そう、いつも通りに私は哨戒任務に飛び立とうとしていただけなのだ。
しかし、ハンガーには使い慣れたメルスの姿は存在せず、変わりに奇妙な、あまりにも奇妙な、見慣れないストライカーユニットが鎮座していた。

「遅いゾ、ニパ!」

あぁ、意図的に、そう、意識的に無視を決め込もうと心に決めていた存在が私に呼びかける。
見慣れないストライカーユニットには既に搭乗者の影…
そこでは、私の天敵で、そして相棒でもあるエイラ・イルマタル・ユーティライネンが楽しげに笑っていた。

「いきなり変なモノに乗って私に話しかけるな…さっさと私のメルスを返せ!!」

私に今必要なのはこのニヤニヤした生き物ではなくて、私を支えてくれるメルスだ。
どこかに行ってはくれないものだろうか…

「ふふん。お前のメルスはこの前の戦闘で爆発大破…直っているはずがないダロ。」

あぁ、それは私もおかしいと思っていたのだ。
だが、哨戒を命じられた以上メルスの修理が終わったものだとばかり思っていたのだ。
しかしメルスがないとなると…任務は連絡ミスであろうか。
つまり私の代わりにイッルが哨戒に行くということにでもなったのかもしれない。
それならばストライカーを身に付けたイッルの存在も理解ができるというものだ。

「なら哨戒はイッルに任せて構わないということか?」

そう言って視線をイッルの顔へと向けると、不意にイッルの口元がニタリと歪む。
なにやら良くない予感が私の頭を通り過ぎたのと、イッルの唇から言葉が紡ぎ出されたのはほぼ同時であった。

「私がなんのために‘コレ’に乗っていると思うンダ?」

あぁ、やはり違和感をありありと発するその異物が問題となる訳だ。
最初に目に飛び込んできたときはなにか全くもって分からなかったソレは、
存在は勿論知っているモノであったが、私たちが目にする機会はほとんど皆無に近いと言ったとしても過言はないモノであった。

「複座式ストライカーか…まさか私にソレに乗れと言う訳ではないよな?」

ソレは、この国では、空を駆ることを恐れという感情をもってしか受け止められない者が訓練として乗せられる装置である。
教官の位置となる後座ならともかくとして、訓練生用の前座に乗り込むことなどプライドに障るものだ。

「それ以外になにがあるって言うんだヨ!!ほらニパ、さっさと乗りこメ!!」

くっ、イッルときたら私をなんだと思っているのだ。
そんな情けない位置に…それにお前がそこにいるというのにできるはずがない。
そこに収まることに反感を覚えなくなったならば、私のエースとしての生命も終わりだ。
なにより、子供っぽいことであるのだが、その行為は私とイッルとの距離を果てしないものにしてしまうようで受け入れられなかった。

「あぁ、ニパ…お前勘違いシテンナー?別にこれはお前をバカにしてのことじゃないヨ…新しい兵器開発のためのデータ収集ダゾ?」

む、それは一体どういうことなのか…私になにをさせようとしているのだ?
一体全体、今更、複座式になんの未来が存在すると言うのだ…。

「どういうことなのかハッキリと言ってくれ。上手く理解できていない。」

疑問に思ったことを私はそのままにしておくことができるような性格をしていない。
イッルのことであるから、やはり、空に上がってから、アレは私にストライカー
を身に付けさせるための方便であったと言いかねないのだ。
それならば、ハッキリさせておくことに越したことはないという訳だ。

「魔力の分担ダヨ。強力な固有魔法ってのはどうしたって魔力の消費が激シイ…だから飛ぶ者と魔法を展開する者との分担をして、
できるだけ長い時間の魔法使用を可能にするって話ダ。それに互いの固有魔法を連携させるのにも適するって話だしナ。」

ふむ、ない話ではなさそうだ…ならば複座式に乗ることも吝かではない。
それに、一応、上からの命令であるらしいしな…仕方のないことだ。

「ふん、やっと乗る気になったのかよ…めんどくさいやつダナー。」

ストライカーの前座へと身を収めているとイッルの声が耳に響いた。
めんどくさいやつで悪かったな…

「じゃあニパ!!ほら発進だ!ストライカーユニット発・進!!」

なんだか馬車馬のような扱いだが我慢してやろう。
私の固有魔法は超回復…世界中探しても上回る者はいないかもしれない程の能力であるイッルの未来予知とは希少価値が違う。
飛行用の魔力供給を担当するのは仕方ないことだ。

「じゃあ飛ぶぞ!!舌噛むなよイッル!!」

心地よい風…複座と二人分の重さのため、メルスと速度性能は比べるべくもないが、それでもやはり頬を撫でる風は快かった。

「2人っきりだなニパ。」

そう呟きながらイッルは私の胸部のあたりにそっと腕を回した。

「スオムスはさ、確かに寒いけど、お前といれば暖かいヨ、ニパ。」

もう既に私は耳まで熟れたりんごのように染め上げているのだろう、吹き付ける風がなければ顔から火がでてしまいそうだ。

こんなウジウジした気持ちは私らしくない…そう思うのだが、そこには、なんとなくこんなのもいいかな、などと思う自らを確かに感じていた。

Fin.


\nムニムニ。ムニムニ。

ははっ…数瞬前までの心地よさを妨げるかのごとくなにやら不快な感触が胸へと走る。

「…なにをやっているんだ、イッル?」

はぁ、なにか理由があるのならばサッサと言え…まぁ、イッルのすることにまともな理由などあるとは思えないのだが…。

「そこに胸があるから…私は揉ム!!」

やはりイッルの頭の病気であった。
しかしこの複座式…後座に対して前座の者は干渉できない。

「おい、やめろ!!あふっ…哨戒終わったら覚えてろよ!!」

イッルときたら私の軍服をしっかりと捲り上げ、服の中まで手を伸ばしていた。

「ふふっ、ニパはやらしくて可愛いナ。声が我慢できないなんてなぁ…でも、そんなとこも愛してるヨ。」

イッルはいつもそうだ…勝手に私を求めて、勝手に愛を囁いて、そして勝手に私を満たしていく。
それはあまりにも自分本位で、私のこの気持ちなんて気にもとめてくれないで、
私の中ではお前を満たすための思いがすっかりと行き場をなくしてしまうのだ。

「イッルのバカ…。」

顔は見えないが、きっとイッルは微笑んでいるのだろう…さっきまで私の胸へと
延びていた腕は私をしっかりと抱きしめていた。

「あっ、ニパ…ゆっくりと降下シロ。後…先に謝っとく、ゴメンナ。」

私はイッルの指示通りゆっくりと降下を開始する。
しかし、先に謝っとくとはおかしな話だ…お前ときたら先ほどから私に不埒なことを働いて…謝るのならば今で正しいというのに。

「うん、もう限界ダナ。後は頑張れヨ!!」

確かにイッルがそう囁くのを感じると私の体を加速度による圧力が襲った。
あぁ、これのことだったのか…やはり今日もツいていない。
そう、ストライカーは私とイッルの間でしっかりと分離して、私は落下しているのだ。
しかし、それでもなぜだか私は妙に冷静で、急速に近づく地面へと向けてゆっくりとシールドを展開した。

ドスンとどこか他人ごとのような音を聞くと自らの体を調べる。
かなりの高度から墜落したのに運がいいのか悪いのか、雪がクッションとなりほぼ無傷…いや、正確には傷はついたそばからなきものとなっていた。

ははっ、空を見上げるとストライカーの崩壊をいち早く、それどころか崩壊の前から未来予知で察知して、
薄情なことに一人だけ離脱したイッルの姿がくるりと旋回していた。

「さっさと降りてこい!!まず一発ぶん殴らせろ…話はそれからだ!!」

私はそう叫ぶが、それでも、確かに胸に存在するどこかイッルを憎めない心の存在を感じ取っていた。

Fin.


『ストライクウィッチーズでシチュ題四十八手』応募作品

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