第32手 頭をなでる


「ん~、なぜシャーリーの胸はこんなに大きいのに垂れないのだろう……」
「エイラ、私の胸を揉みながらカッコつけるのはやめないか?」
「ニ゛ャー!?シャーリーのおっぱいはわたしのなの~!!!」
さっきまで一緒にお茶を飲んでたと思ったのに、エイラったら……。
ルッキーニちゃんが泣きそうだから、もうやめたほうがいいよ?

お母さんシャーリーに甘える子供みたいな二人を見ながら
私はちいさくため息をついた。
エイラって本当に女の子の身体を触るのが好きだ。
何度注意しても、その場では「ワカッタ、ワカッタ」っていうだけ。
そのくせ、私のことは全然触ろうとしてこないし……。
私って、そんなに魅力がないのかな。ちょっと寂しくなる。
占いも未来予測の魔法も使えるんだから、少しぐらい私の気持ちに
気付いてくれてもいいのにな……。

ちょっと冷めはじめた紅茶を一口飲んで、
2つめのクッキーに手を伸ばそうとしたとき――。
「おやぁ~、リトヴャク中尉、やきもちですか~?」
「――っ!!」
いきなり後ろから声を掛けられて、思わずカップを落としそうになった。
びっくりした顔のままの私を、ハルトマンさんはニヤニヤしながら見ていた。
「旦那が浮気症だと大変だねぇ、サーニャも」
「エイラとは、そんなのじゃ、ありません……」
もちろん、エイラとそういう関係にはなりたいけど……。
自分の顔が赤くなるのがわかる。
「ふ~ん、ま、いいけどね」
ハルトマンさんは私の横に座ってクッキーをぼりぼり。
それ、エイラの分です、ハルトマンさん。

「ねぇ、サーニャ、知ってる?」
ごっくんと音を立ててクッキーを飲み込むと、ハルトマンさんは
私にそっと耳打ちしてきた。
「エイラみたいなのは、実はすっごい寂しがりやだってこと」
「そうなんですか?」
「ああ見えて一人ぼっちだと死んじゃうタイプだね、あれは」
「へぇ……」
「だから、エイラ攻略の鍵は『お母さん分』。これだよ」
「こっ、攻略!?」
私の顔は、きっとタコみたいに赤かったんじゃないかって思う。
ハルトマンさんは何だかすごく嬉しそうな顔をしている。
「そ。エイラも結構赤ちゃんだからさ~。ママの愛情に飢えてるんだよ」
「ママの愛情……」
ママか……。それじゃあ、私には勝目がないってことだよね。
「でも、私はエイラより年下だから……。」
「そんなの関係ないよ。大事なのは気持ちだよ、気持ち。
  サーニャ・リトヴャク中尉! 今こそあのヘタレスオムス人に
  オラーシャ流母の愛を見せつけてやれぃ!」
「母の愛……」
「んじゃ、頑張ってね。後で報告よろしく♪」
そう言い残して、ハルトマンさんは踊るようなステップを踏んで
どこかにいってしまった。
私はすっかり冷えてしまった紅茶を飲み干して、
また一つ、小さくため息をついた。

自分の部屋に戻りながら、私はハルトマンさんの言う「母の愛」について考えていた。
私のお母さまはいつも優しくて、おいしい料理を作ってくれて、小さいときには
よく絵本を読んでくれて……。
でも、エイラに絵本を読んであげたってエイラは喜ばないよね。
それにオラーシャのお母さんとスオムスのお母さんって同じなのかな、違うのかな。
私はスオムスに行ったことがないからよくわからないけど。
そんなことを考えながら歩いていたら、自分の部屋の前を通りすぎて、
エイラの部屋の前まで来てしまっていた。
元々ぼんやりしてるほうだけど、ちょっとぼんやりしすぎてるかな、と反省して、
自分の部屋へと引き返そうとしたちょうどその時、エイラの部屋のドアが開いた。
「わっ、サーニャ。こんなところでドウシタんダ?」
「部屋に戻ろうとしただけだよ。エイラはこれから任務?」
「うん。これからバルクホルン大尉と哨戒任務なんダ」
そう答えたエイラは、優しい顔をしていても目だけはすごく真剣で、
やっぱりエイラはかっこいいな、なんてことを思った。
エイラ、頑張ってね。でも、怪我なんてしちゃ嫌だよ。
格納庫に歩いていこうとするエイラの背中を見て、
私はあるおまじないを思いだした。
それはお母様が毎朝してくれた、大切なおまじない――。

「エイラ」
私の声に振り向いたエイラを私はそっと抱きしめた。
そして、右手をエイラの頭において、その頭をそっとそっと撫でた。
お母様が私にしてくれたように。優しく、そっと。
「サッ、サーニャぁ……」
エイラの顔が真っ赤になっている。心臓がドキドキ言っている音が聞こえる。
いつもなら私も顔が真っ赤になって恥ずかしくてしょうがないけど、
今はなぜだが、すごく優しくて、落ち着いた気持ちになっている。
「いってらっしゃい、エイラ。早く帰ってきてね」
お母様が毎日してくれたおまじない。
そっと抱きしめて、頭をなでて、「いってらっしゃい」って言ってくれること。
それだけで、なんだかその日一日がすごく素敵な日になった。
難しいお稽古も、お勉強も、うまくできるような気がした。
それが、私の覚えているお母様の魔法――。

「じゃ、じゃあ、行ってくるかンナ! すぐ戻ってくるかンナ!!」
エイラは顔を真っ赤にしたまま格納庫へ走っていった。
そんなエイラが、そのときの私にはすごくかわいくて、愛おしく思えた。


その後、エイラはものすごい勢いで任務を済ませて、
息を切らしながら私のところにかけこんできた。
ミーナ中佐から聞いたんだけど、その日エイラはネウロイを3機も撃墜して、
皆目を丸くしてたんだって。

Fin.


『ストライクウィッチーズでシチュ題四十八手』応募作品

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