第46手 くすぐる
スオムスの冬は長い。
そして、それは同時に退屈な時期でもある。
冬の訪れからさほど時を経ないうちか、もしくは春の息吹を感じ始めるころならばともかくとして、
冬も深まると吹雪くのが当然であるから部屋にこもりがちとなるからだ。
その暇が危険の温床となっているのが、私の最近の悩みの種である。
そう、アイツは退屈という空間をヒドく嫌うためか、この時期になると私へのイタズラに花を咲かせるのだ。
この前など、私を水浸しにしようと考えたのか、扉を開くと頭上からバケツの中身が降ってきたのだ。
あぁ、しかもそれは放置されたためであろうか既に氷と化し、イタズラと言うよりはもはや対人兵器と言ってもはばかられないモノであった。
あのときばかりは私も昏倒したし、目覚めると日付が2つ変わっていたときは驚愕したさ。
まぁ、イッルもすっかりと絞られていたし、
両の瞳に大粒の涙を溜めて反省してるようだったので、もう危険なイタズラはしないという約束をして許してやった。
だがしかし、私はなぜイタズラ自体を止めなかったのか…それ以来イッルときたらイタズラがなんだかやらしいのだ。
いや、確かに危険ではないし、正直に言うと決して嫌には思っていないのだが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしくて、困ってしまう。
今だって…
「ニパ~?」
耳元でそう囁いて、湯湯婆かなにかと考えているのか、私の身体で暖をとっているのだ。
耳に吐息がかかり、びくりと身体の芯を震わせてしまう。
「な、なんで私のベッドに潜り込むんだ!!」
そう文句を絞り出すが、あからさまに声は震えを帯びていて、迫力といったものは存在していなかった。
どうも心から怒ることのできないらしい、自らが恥ずかしい。
「嫌カ?」
寂しそうなお前の声が鼓膜を揺らすだけで、私ときたらもう強くは言えないのだ。
そんなことだから私は、恥ずかしいけれども、決して嫌には思ってないのだと強く思い知らされてしまって、頬を朱に染めた。
「嫌じゃないけど…。」
どうしてもイッルの目で見つめられると嘘などつけなくて、全て暴かれてしまう。
それでも恥ずかしくないはずがなくて、文句を言う代わりに太ももをえいやっとつねってやった。
「痛いナ~、もう。ごめんごめん。」
イッルはそう言葉をこぼすけれど、反省などしているはずがなくて、仕返しのつもりか私の首筋へと舌を這わせた。
「ひっ!!」
間の抜けた声をあげてしまうと同時に顔が熱くなる。
気持ち悪いのか、気持ち良いのかさえも私には分からなくて、ただ身体を震わせていた。
「ニパ、力抜いテ。」
その言葉のままに力を抜くと、イッルの手が服をめくりあげて、私の身体を…
くすぐり始めた。
「ひゃっ!!やっ、やめ!!あはははは!!!!」
もうそれは、くすぐったいやら、なにやらどうしても恥ずかしい気持ちやら入り混じって、頭を溶かす。
脇腹に背中、太ももにお尻、脇にオマケとばかりに胸まで手を這わせ、くすぐったいのか…なのか私には分かりはしない。
「バカ!ダメっ、ふぁ。やめろ~!!」
叫ぶけれども、イッルときたらニヤニヤと笑みを湛えるだけで、その手を止めやしない。
そんな恥ずかしいとこを触るなバカ!!イッルのスケベ、変態!!
言いたいことはたくさん、それこそ山のようにあったけれども、私は何一つ口からだせなかった。
私ときたら顔どころか、身体中真っ赤になっているのではないかというぐらいに熱くなっていて、もうなされるがままだったのだ。
「ん、ニパどうした、顔真っ赤ダゾ。なんかあったカ?」
すっかりとくすぐることを楽しんだのか。イッルは、グッタリとした私の耳元で囁いた。
あぁ、お前ときたら意地悪で意地悪でヒドいヤツだ。
こんな風にしたのはお前だというのに、全部分かっているくせに。
どうしてか腹が立ったので、ギュッとイッルの背を抱きしめると爪を立てた。
「ばか!ばかっ!イッルのばかぁ!!」
たまりにたまった不平を詰め込んでそうこぼすと、イッルの手が私の髪を撫でる。
ふん、本当にイッルはバカなのだから。
言葉にはださないけれど、こめられた気持ちを受け取る。
たまには、たまには声にだしてくれないと伝わりやしないのだ。
それでも、髪と頬を撫でるイッルが一所懸命に何かを伝えようとしているのが分かったから、許してやろう。
あぁ、もう本当に、くすぐられたのは身体なのか心なのか分からないではないか、とくだらないことを思いながらアイツへと身体を寄せた。
Fin.