第19手 ほおずり
美緒の寝顔を見、ミーナはふうと溜め息をついた。
ネウロイを撃墜したは良いが、全員疲労の色が濃い。
無理もない。
直前までワルツを踊り、普段は使わない部分の筋肉も使っていたのだ。
そんな状態で出撃し戦闘ともなれば、いつもよりも疲れて当たり前。
ミーナは結局使われなかった礼服を丁寧にしまい、ハンガーに吊した。
粗雑に脱ぎ捨てられた美緒の礼服にも手を伸ばす。
勲章やら襟章やらを取り外し、箱にしまう。
これらいわば「金属の塊」は、彼女の手柄やらの「かたち」のひとつ。
だが、ミーナには、それ以上に、美緒自身が、彼女にとってひとつの勲章であり、
大切な部隊の仲間であり、家族、そして……。
ベッドで眠りこける美緒に顔を寄せ、そっと頬を重ねる。
頬の柔らかな感触を確かめる。
いつもはきりりとした表情、張りつめた頬のちからも、いまは無力で……
色白な、扶桑の撫子のそれであった。
ミーナは味わうかの様に、頬ずりするミーナ。
「う……ん」
美緒が少し呻いた。頬に違和感を感じたからか。それとも単なる疲れか、もしくは……。
「み、お」
耳元でそっと囁く。囁かれた当の本人は、穏やかな顔に戻り、静かに寝息を立てた。
「貴方が安心して眠れるのがここ……っていうのが、嬉しいかな」
ミーナは美緒の肩に毛布をかけると、ベッドの傍らに座り、窓の外を見る。
十六夜の月が空に映える。純白に輝く柔らかな光は、ミーナと美緒を控えめに照らし、
武人、軍人である前に、うら若きふたりの乙女である事を現す。
ミーナは頬杖をつくと、ぼおっと月を眺めた。
「もう一度、円舞を二人で……」
静かに流れるときを噛みしめ、ミーナはそっと目を閉じた。
end