第15手 おんぶ・背中へ一方的にのしかかる
目を覚ますとひとりぼっちになっていた。
あの人がいない。
どこにもいない。
あの人はいつもなら、私よりもよほど早く目覚めているにも関わらず、眠る私が起きるまで私を抱きしめていてくれるのだ。
毎日毎日ベッドに忍び込む私を、仕方のない、の一言を持って抱きしめてくれる
あの人がいなければ、私の心はすっかりとしぼんでしまう。
暖かくて、優しくて、それなのに私を子供扱いして…あの人は私が持っている、
幼いけれど、確かに存在する気持ちなど全く気にもとめないで、いや、更に悪いことに気づきすらしない。
いくら自らが年上だからとしたって、保護者ぶるのならば、せめて、せめて私のこの気持ちを汲み取ることぐらいしてくれてもよいのだろうに。
あの人は全くもって鈍いのだ。
いつもふわふわと笑っていて、なにも考えていないのか、
それとも分かっていて私の気持ちを忌避しているのか、どちらにせよ全くもってヒドい人…。
だからといって、私があの人のことを嫌いになれるはずなどなくて、自らの体温のみを残すベッドがどうしようもなく寂しく感じてしまわれる。
「探しにイコ…。」
孤独な自らを奮い立たせるようにポツリとそう呟き、
えいやっ、とばかりにベッドから身を起こすと、確かな質量を携えた冷たい空気の層がのしかかる。
この国の冬は寒い。
ちっぽけな自らの身体でさえ、柔らかい布にくるまれていれば存外に暖かいほど熱を返してくれていたらしく、
ベッドから抜け出した私の身体はひんやりとした空気に熱を奪われる。
胸にたまり、そして頭の中をめぐる冷気が段々と眠たい頭を揺り動かす。
寒い…、と文句でも言うかの様に囁いたのは、もしかしなくても隣にはいないあの人への訴えだった。
寒いと言ってしがみつく私を、本当にしょうがない子だ、と思っているのだろうか、
あの人はいつもいつも私の髪をふわりと撫であげて微笑むのだ。
私が寒い時にはいつも隣にいてくれなくては困るじゃないか、と的外れなことを呟く。
それは、建前をどうにかして自分にも、そしてあの人にも、本音と思わせておかなければ、
こんな関係などすぐに終焉を迎えてしまうのではないか、という怖れを紛らわすためであった。
静かで、冷たい廊下をポツリと歩く。
アナタはどこだろうか…食堂だろうか?それともブリーフィングルームだろうか?
まぁ、どこだろうが私はアナタ行く場所ならどこにでも行くから関係ないか…そう考えて黙々と歩んだ。
…いた。確かにあの人は、食堂で‘友達’と話している。
楽しそうに笑う姿がなんだか無性に寂しくて、私は彼女の背中へと飛びついた。
「置いていくなんてヒドいじゃナイカー。」
私の声にアナタは顔だけ振り向いて、ふわりと微笑んだ。
「あぁ、エイラさん、すみません!もうそんな時間でしたか!つい…」
アナタが申し訳なさそうに謝ったから許してあげよう。
だけど今日はこの背中から離れてはやらない。
そう思い、私は彼女の首にまわした腕にギュッと力を込めた。
Fin.