第9手 乳を揉む
少しだけ。少しだけでいいから私だって仕返しがしたかった。
いや、仕返しと言っても、それは決して恨み言とかそういった類のことではなくて、端的に言ってしまえば二人の交わりについてなのだ。
いつもいつもアイツときたら私のベッドへと潜り込んで、
あの、その…耳を食んだりだとか、胸を揉んだりとか…それこそ、決して言えやしないことまで…。
確かに気持ちを伝え合った間柄なのだから、そのような、享楽的なことにふけることは吝かではない。
むしろ、どちらかと言えばできるだけ、あの、えっと…気持ちを注いでほしいぐらいなのだ。
けれども、アイツときたら、すっとベッドへと入ってきたかと思えば、既に私の身体を弄り始めていて、私に主導権など与えてやくれやしない。
だから毎晩毎晩、私ばかりが、その…高められてしまって、気づいた時にはもう朝で、
自らが身に余る快楽により気を失ってしまったことに気づき、情けなさばかりが募るのだ。
つまり、なにが言いたいかというと、是が非でも主導権を奪って、イッルに一泡ふかせたいということである。
あぁ、しかしアイツときたら全くもって隙など見せず、私は主導権を奪うどころか、被撃墜スコアを着実に伸ばすのみであった。
このままではいけない。
そう思い、私はイッルの後をつけて、隙を見つけることに決めた。
ふむ。よくよく考えてみると、長いこと一緒にいたわりには、私はイッルの生活についてあまり知らない。
一緒にいる時間が多いからこそ、私といないときの様子など気にしたことがなかったな。
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という訳で一日中つけまわしてみたのだが、イッルのしたことと言えば…
・廊下で出会ったハッセの胸をすれ違いざまに揉み、なにか耳元で囁く。
ハッセがなにやら頷くと、ニコニコしながらスキップして去っていった。
・廊下でアホネンと遭遇。なぜか涙目で遁走した。
逃げながらお前は絶対にくるんじゃねーと意味の分からないことを叫ぶ。
・ハッキネン司令の胸を揉もうとして手をはたかれる。
なにやら迷っていたようだが、なにか小声で説明していた。
・エイッカ隊長とお茶を飲む。
なにやらどんよりと沈んだエイッカ隊長を慰めていたかと思えば、なにか耳元で囁いて去った。
なぜか胸は揉まなかった。
・エルマ大尉に遭遇。
もちろん胸を揉みしだく。
やはりなにか耳元で囁くと、食堂へむかった。
うん、少しぐらいなら…死なない程度なら痛めつけたとしても構わないのではないだろうか。
イッルときたら誰彼かまわず胸に手を伸ばして…この浮気者。
そう考えるとなんだかむしゃくしゃしてきて、一人ポツンと食堂の椅子でダラリとしているアイツになにかお仕置きをしてやりたくなった。
あぁなんだ、当初の目的と合致するではないか。
やってやる。私はやってやるぞ!イッルに一泡ふかせてやるんだ!
そろりそろりと、できるだけ静かに、気づかれないように背後につけると…イッルに狙いを定める。
………今だっ!!
私は全くもって無警戒なイッルを椅子から引きずり落とし、馬乗りになった。
「エッ?ナンダナンダ?」
イッルの平坦な声が響く。誰も食堂にいなかったのが不幸だったな!
私は、いつもの仕返しだとばかりにイッルの胸に手を伸ばし、そして揉みしだいた。
「ひゃっ、ヤ、なにすんダヨ!あふっ…。」
イッルの不平が耳に入るが、私はそれを無視してかまわず胸をこねくり回す。
ムニュムニュとそれは形を変え、私の征服欲を満たしていく。
「可愛い声だすじゃないか。たまには私だって攻める側にまわりたいんだ!覚悟しろよ!」
イッルが目をギュッと瞑って震える。
その姿はなんだかいつものカッコイい姿とは違って女の子らしくて、私の胸を燃え上がらせた。
「ずっと私の胸揉みたかったノカ?」
いきなりの奇妙な問いに私の顔に血流が昇る。
あの、そりゃさ…
「そうだよ!揉みたかったよ!!悪いか、私だってやらしい気分にぐらいなる!!」
今まで隠していた思いの丈をぶつけると、妙に胸がすっきりとした。
イッルは顔を朱な染め、何かを堪えるように俯く。
「本当カ?嬉しい…も一回言ってクレ、大きな声デ。」
なんだなんだ、イッルはこんなことを言われると嬉しいのか?
その赤く染まった頬が可愛らしかったから、リクエストに答えてやろう。
「私はイッルの胸がずっと揉みたかったんだよ!!お前を見てるとやらしい気分になるんだ!!」
そう私は声をあげた。
イッルを見つめると、顔はもう真っ赤で、ぷるぷると震えていて、あぁ、どうしようもなく可愛かったよ!!
そうイッルは、ぷるぷると震えて…そして噴き出した。
えっ、噴き出した?
イッルときたらいきなりの大笑いを見せる。
一体どうしたと言うのだ?
イッルが私の後ろに指をむける。ん、後ろがどうかしたと言うのだろうか。
そして私が振り向くと…
そうさ、エルマ大尉にエイッカ隊長、ハッセとオマケにアホネンとハッキネン司令までいる。
そこで私はふと気付いたのだ…あぁ、はめられたのだと。
私ときたら公衆の面前で淫らな行為に及んだ上に、変態的な主張までしてしまった。
可哀想なものを見るような皆の視線が痛い。
「わ、私をソンナメデミンナー!!」
声を振り絞ると、私は自らの部屋へと逃げ出した。
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ぐすっ、ぐすっと情けない音が部屋に響く。
私ときたらなんとカッコ悪くて情けないのだろうか。
またイッルの手の平で踊らされて…いつになったら私は優位に立てるのだろう。
キーッと建て付けの悪いドアが開く音が響く。
「なにしにきたんだよ…。私をバカにしにきたのか?」
そう、ドアの向こうにはやはりイッルが立っていて、部屋の中、そして私の心の中に無遠慮に踏み込んできた。
私は面とむかえるはずなどなくて、ぷいっと顔を身体ごと背ける。
「なぁニパ?あの、からかったのは事実だけどさ、お前の気持ちが嬉しかったのは本当ダヨ。」
そう言ってイッルは私の頬を撫でる。
それだけで、本当にそれだけで私の心は溶けてしまって、もう不機嫌なんて飛んでいってしまうのだ。
うん、許してやろう。その代わり…
「じゃあさっきの続きな!じゃあ、いただきます!!」
私はイッルをベッドへ押し倒すと自らの身体を覆い被せる。
「えっ、ちょっと待テ!本当に?あわ…」
慌てるイッルも可愛らしいな…とあまりにもダメなことを考えながら私は胸へと手を伸ばした。
Fin.