第6手 膝枕


「具合はどうだ、エーリカ」
「ん~、まあまあ?」
トゥルーデの部屋のベッドで気怠そうに横になっているのはエーリカ。
先日トゥルーデが調子を崩したのだが、その悪い部分がうつってしまったのか、
トゥルーデの回復と入れ違いにエーリカの具合が悪化して今に至る。
額と頬に手をやり、熱を見る。
「だいぶ治まったな。あとは体力を回復するだけだ」
「体力ねえ……トゥルーデが毎晩求めてくるからね」
にやりと笑うエーリカ。
「そっそれは! いつもお前が最初に誘って来るからだろうが!」
「だって。一人じゃ寂しいじゃん。せっかく横にトゥルーデが居るのに、生殺しだよ」
「いや、私と一緒に寝たところで、飼い殺しと言うか、真綿で首を絞めると言うかだな……」
たじろいで言葉が泳ぐトゥルーデを見てくすくす笑うエーリカ。
「ねえ、トゥルーデ」
「どうした?」
「横、来てよ」
「ああ」
エーリカの頭の横にそっと腰掛ける。エーリカは手を伸ばすと、くいくいと引っ張った。
「何だ?」
「今はもう少し枕の位置高いと楽なんだよね」
「私を枕替わりに?」
言いながらもトゥルーデは靴を脱ぎ、ベッドに上がっていた。
ちょこんと座ると、エーリカは待ってたとばかりにトゥルーデのふとももに頭を置いた。
「ああ、良いね。これこれ」
「まあ、お前が楽になるなら、好きにしろ」
「ありがと、トゥルーデ」
「お、おいエーリカ、すりすりするな! くすぐったいだろ」
「ついやっちゃった」
「ついって……」
エーリカはトゥルーデの戸惑いなど何処吹く風とばかりに、大きく息を吸い、吐き、体重を預けた。
トゥルーデも慣れたもので、エーリカの身をそっと寄せ、上に毛布を掛けてやる。
よく明け方とかにふたりで過ごす時に、こう言う体勢になる時がある。
この日もそんな普段の仕草と変わらず……お互い肌で呼吸を、鼓動を感じ、リラックスする。
トゥルーデはエーリカの髪をそっとすくい上げ、さらっと流した。
「ここ数日風呂もシャワーもサウナも浴びてないから……」
エーリカがぽつりと言った。
「前の私だってそうだ。でもエーリカ、お前はそんな事気にしてなかっただろ? 私も一緒さ」
「……」
「お前がこうしてゆっくり出来るなら、それで良い」
「そっか」
指の間からこぼれ落ちるエーリカの髪。さらっとした金の直毛が、ひときわ美しい。
「トゥルーデの膝枕って、あったかいよね」
「そうか?」
「うん。落ち着くよ」
「好きにしろ」
「遠慮なく」
それっきり言葉は途絶え、エーリカはいつしか浅い眠りについた。
トゥルーデは傍らの本を手に取って少し眺めたりもしたが、最終的にはエーリカに回帰する。
穏やかな無垢の寝顔を見て、何処か安心している自分が居る、と自覚するトゥルーデ。
もう一度そっと頭を撫でると、トゥルーデはふうとひとつ息をついた。
「幸せなのか……何なのか、分からないな」
そうひとりごちて、エーリカを膝に置いたまま、外を見る。
夕暮れから暫くして現れた立待月が、ゆっくりとふたりの姿を窓から覗き見る。
柔らかな月光は、カールスラントの恋人達を癒す様に、しばしじっくりと、輝いた。

end


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『ストライクウィッチーズでシチュ題四十八手』応募作品

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