第25手 キス・首に


 執務室に静寂が満ちる。
 張りつめた緊張感が見えない糸となってわたしと宮藤さんとを繋いでいる。
 たわませてはいけない、そう思わせる厳かな空気を宮藤さんは感じているはずだ。
 彼女の引き結ばれた唇は言葉を発する機能を失い、彼女の見開かれた瞳は一直線にわたしを見つめ、外すことができないのだろう。
 わたしはいま、彼女を睨みつけている。
「前にも言いました。喧嘩をしてはいけません、と」
 語尾を強めて威嚇する。目にいっそうの力を込め、彼女の瞳を捕らえて離さない。
 それでも宮藤さんの目にはかすかな怯えが見えるだけで自身の信念を曲げるような気弱な意思は欠片も見られなかった。
 さすがは扶桑の撫子、美緒が見込んで連れてきただけのことはある。
 しかし、わたしの階級は中佐であり、わたしはこの部隊の隊長であった。
「多少、ふざける程度なら構いません。ですが我々はネウロイを撃滅する任務を背負っています。隊の秩序を乱すような真似が許されないことぐらい、思慮分別のあるウィッチなら分かるはずです」
 論理的に言葉を積み上げることで逃げ場を潰していく。
 言い逃れを封じた上で真意を問いただす。彼女の性格から推し測って、すでに分かりきっていることを。
「答えなさい。なぜ再三にわたって注意したにも関わらずクロステルマン中尉と口論をくり広げ、あやうく取っ組み合いに発展する寸前までやめようとしなかったのですか?」
「…………リーネちゃんを、リネット軍曹のことを侮辱しました」
 睨みを利かせるわたしをじっと見据えながら宮藤さんは絞り出すように言葉を続けた。
「ひっこみ思案で弱虫で、料理のまずいブリティッシュのセンスはどうかしている、とそう貶しました」
 ブリタニアの料理がおいしくないことについては同意したいところではあるものの、いまのわたしは部下の過ちに手厳しい上官でなければならなかった。
 鋭い眼光を向けて宮藤さんの言葉を容赦なく突き崩した。

「いさかいを起こしてまであなたが介入する問題ではありません」
「でもわたしは――――」
「不服があるのならリネット軍曹本人がわたしに上申すればいいだけの話です」
「そんなこと――――」
「立場をわきまえなさい、宮藤軍曹」
 執務机を叩いて大きな音を立てた。
 ビクッと体を震わせた宮藤さんの瞳には言葉に乗せることのできない悔しさが揺れていた。
 目の端に溜まった涙をこぼさないよう、必死に堪えているのが手に取るように分かる。
 わたしは椅子から立ち上がり、悠然とした態度を保ちながら机を迂回して宮藤さんのそばに歩み寄っていった。
「義憤に駆られることが悪だとは言いません。しかし方法を間違えれば暴走した善意が思わぬ結果を招くこともあります。あなたの直情径行な言動によって、あなたの大切な誰かを傷つけることに繋がるかもしれません。もっと自分の言葉と行いに責任を持ちなさい」
 宮藤さんは変わらず休めの姿勢のままわたしの言葉に耳を傾けている。
 果たして、美緒と同じく頑固な気質である彼女にいかほどの効果があるだろうか。
 たとえ言葉で叱りつけても、頬をはたいたとしても、彼女の心を曲げさせることは難しいに違いない。
 銃の受け取りを頑なに拒んだように、自分が間違っていると思ったことはけっして許さず、また許せない性質なのだ。
 不屈の精神をもつ相手に対していくら頭ごなしに仕掛けたところで折れることはまずないだろう。
 わたしの説教は確実に彼女の意地を太らせているはずだった。

 宮藤さんの横を通りすぎ、背後にたどり着いた。
 この場におけるわたしは彼女にとって意見をたがえる異種、外敵に等しい。
 敵手にうしろを取られていながら振り返ることを許されないもどかしさ。宮藤さんはこの状況にストレスをおぼえていることだろう。
 無防備に背中をさらし、相手がいつ何をしてくるか分からないのだ。言葉による叱責か、それとも直接的な力による矯正か。
 宮藤さんの体が刻一刻と強張っていくように感じられた。

 部屋に沈黙のカーテンを引いてから三つ数える。
 わたしは彼女に近づき、その両肩にそっと手を置いた。ビクンと跳ねる肩が内心の驚きを物語っている。
 体の接触はなによりも強烈な圧力になる。それも一見して好意的とも取れるくらい優しい触れ合い。
 意図の見えない行為に宮藤さんのなかで不安な気持ちが芽生えているはずだ。そうして座りの悪い心地にすることがわたしの狙いだった。
 叩いたりはしない。ただ優しく、頑なに突っぱねる心に溶け込んで解きほぐすだけ。
 わたしは肩に置いた手をそのまま前に滑らせ、宮藤さんの体を抱きしめた。
「えっ、ミーナ、中佐……?」
 戸惑いの混じった声音に目尻がやわらいでしまう。
 いけない、心を鬼にしなければならない場面なのだ。
 あまりに少女らしい宮藤さんの反応に笑みを浮かべてしまいそうになって自分を戒める。
「宮藤さん、わたしたちはね、家族なのよ。家族は仲良くしなければいけないの」
 少しずつ腕に力を入れていく。
 逃げられないように、宮藤さんに気持ちが伝わるように、わたしの体を密着させて耳元でささやきつづける。
 うっすらと赤くなっている耳に息を吹きかけた。
 かわいらしくぶるりと震えて首筋に鳥肌が立っていた。じつに初々しく、愛らしい。
「宮藤さんだって仲良くしたいわよね?」
「わ、わたしは……」
 首の付け根にそっと口づけた。宮藤さんの体が一段と大きく震えた。予期しない行動に動揺しているようだ。
 わたしは薄く開いた唇の隙間から血液を吸い上げるように柔肌を吸引する。
 ちぅ、と吸って取り除くのは強情な宮藤さん。力んでいる彼女をやわらかくさせるための教育的指導。彼女の良心に訴えかけるための作戦だ。
 付け根のキスを皮切りに、首筋を這い上がるように舌を走らせていく。
 唾液をわざと滴らせ、それを塗りたくりつつも舐め取るように舌を這わせる。
「んぁ、ぅ……」
 身動きの取れない状態で必死に抵抗しようとする宮藤さんを力と権力で押さえつける。
 これは説得であると同時に罰でもあるのだ。わたしの忠告を破ったふしだらな子に与えられる、わたしなりの罰。この程度の報いで済ませて、もう二度と過ちを犯さないと約束させるためのささやかな罰。
 おそらく美緒の部屋ではペリーヌさんが言葉にするのも憚られるような激しい責めを受けていることだろう。
 わたしには想像もできないほど厳しく、肉体的にも手痛い罰を受けているはずだ。
 喧嘩は両成敗、わたしは美緒と違うやり方で宮藤さんに改心してもらおうとしているに過ぎないのだ。
「答えなさい、宮藤さん。あなたは他のみんなとちゃんと仲良くできるわよね?」
 髪の生え際に口づけ、耳たぶを甘噛みする。
 首筋を何遍もちろちろと舌で舐めまわすにつれて宮藤さんの息が乱れていく。
 こころなしか前屈みになり、わたしの責め苦から逃れようとしているけれどそうはいかない。
 わたしは宮藤さんの腕を取ろうとして、気がついた。

「宮藤さん、あなた……」
「だ、だって、わたし……」
 彼女の腕は両脚のあいだを隠すように束ねられていた。
 恥ずかしいものを見られたくないとでも言いたげに、そこを手で覆っている。
 よく見れば彼女の太ももの片方を透明な水滴が伝い落ちているようだ。
 なんていやらしい子なのだろう。
 わたしが真剣に思ってしてあげているというのに、肝心の宮藤さんは触れればはっきりと分かるほどにズボンを湿らせていた。
 わたしの厚意は宮藤さんには届いていなかったのだ。
「あなたという人は……」
「ちがいます、ちがうんです!」
「……すこし厳しくしないと、分からないみたいね」
 美緒ほど激しく責めたりはしない。とはいえ上官の面前で平然と痴態をさらすような宮藤さんにとって、わたしのやり方はいささか甘すぎたのかもしれない。
 わたしの叱り方は生ぬるかったというのだろうか。もうすこし強く、深く反省をさせないと分かってくれないのだろうか。
 わたしが良かれと思っていた方法はより強力なものに改善する必要があるようだ。
 自分がいかにいけないことをしたのか、もっと彼女の良心が責め苛まれるように工夫して自身で過ちに気付けるようになる方法を取らなければいけない。
 わたしは決意を固めた。
「あなたはもっと物分かりのよい子だと思っていたけれど、わたしの見当違いだったのかしらね」
 あえて口に出して宮藤さんに問いかける。
 違います、と言わせて自分の過ちを認めさせられたらそれでいい。でも宮藤芳佳という娘は、
「わたしも仲良くしたい、ですけど、でも、んんっ……!」
 簡単に首を縦には振らないのだ。
 どうしても分かってもらえないので言葉よりも直接的な方法で話しかける。
 彼女のあごを横に向けさせ、唇を塞いだ。
 言葉では届かないというならボディコンタクトでわたしの言いたいことを伝えてあげるしかない。
 わたしの気持ちを正しく理解できれば彼女も分かってくれるはずだ。
 唇を割って舌を差し入れる。
 見れば宮藤さんの薄く開かれた目は潤みきっており、わたしのお仕置きに怯えているようだった。
 それは彼女の舌が縮こまっていることからも窺えた。萎縮した舌をつんつんと突付いて起き上がらせ、その先端から根元にかけてわたしを絡ませていく。
 唾液を潤滑油に見立て、宮藤さんを先導するようにワルツを踊る。
 ぬめっとした感触が生々しく、宮藤さんの頬に赤みが差していった。

「んぁ、むぅ、ん……」
 声にならない音をあげて身をよじったところで彼女の体は逃げられない。
 わたしは宮藤さんを抱きしめる手の片方を下におろしていき、必死に隠そうとする両手を払い除け、いまやみだらな液体ですっかり濡れてしまったズボンに指を添えた。
 わたしは教えてあげなければならないのだ。
 仲間といざこざを起こしてはならないこと、自分の気持ちを抑えることも必要であるということ。
 まだ幼い少女の良心に呵責をおぼえさせることで自らを省みるように導いてあげる、それは上官として、年長者として当然の義務なのだ。
 すこしだけ厳しいお仕置きを施すことで自分がいけないことをしたのだと気付いてもらう、そのための必要悪。
 びしょびしょのズボンの上から優しく撫でてあげる。
 子犬の頭を撫でるのと似た要領で、ゆっくりと宮藤さんのやわらかい部分をさすっていく。
 染み出してくる透明な液体が糸を引き、わたしの指は粘っこいヴェールにすっかり覆われてしまった。
「宮藤さん、歳のわりにませているのは構わないけれど自制心と状況判断能力に欠けているようね。上官であるわたしの目の前でこんなにして、まともな子のすることではないわ」
「あぅ、わたしは――――」
「お黙りなさい」
 離していた唇を再び押しつけて反駁を封印する。
 言葉では更生できないのだから体に教えて気付かせてあげます。
 あなたがウィッチとして一人前になれるように、わたしが最善を尽くしてまっすぐに伸ばしてあげますからね。
 ズボンをさすっている指が頑固に自己主張する宮藤さんにぶつかった。
 布地の上からでもはっきり分かるほどに大きく、身を硬くしている。
 わたしは基本的な方針は変えず、頑なに抵抗する彼女を解きほぐすことにした。
 凝り固まった彼女自身をズボン越しにひっかいた。
「んぁあっ……!」
 口付けで繋がったわたしの口腔にくぐもった音が響いた。
 くりくりと削るように意固地な宮藤さんをたしなめる。
 何度も往復して爪で弾き、意地を張るのが馬鹿らしく思えるようになるまで徹底的にいじり倒す。
 小さな彼女にこびりついた強情をこそぎ落としてあげるのだ。
 気は進まなくてもやらなければならない。いけない子には実力を行使して教えてあげないとその子のためにならないから。
 わたしの指と舌で優しく、けれど厳しく接することで彼女がきちんと成長できるなら、わたしには何も厭う理由がない。
 ズボンとは別に宮藤さんを抱きしめていた手をセーラー服の首元から侵入させた。
 まだ発育しきっていない、なだらかな丘のてっぺんが紺色の生地を控えめに押し上げてツンとそびえていた。
 その威勢を殺さないようにそっと、指の腹で円を描くように優しく叱ってあげる。
 小さな宮藤さんは先っぽを尖らせて抵抗していたけれど、指が触れるか触れないかのむずがゆいさわり方に対して為すがまま、どれだけ弄ばれてもひたすら我慢するしかなかった。

「ぁ、はぁ……ん、ぅ……」
 宮藤さんの上気した頬をひと筋の涙が滑り落ちた。
 額には大粒の汗をかき、下がりきった眉に抵抗の意思はほとんど残っていないように思える。
 潤んで揺れる瞳が切なそうにわたしを見つめていた。
 ときおり漏れる呼吸は乱れに乱れ、前屈みになった体がいままで以上にびくびくと跳ねてわたしに擦り寄ってくる。
 わたしはそろそろ頃合いかと見計らい、宮藤さんのなかで疼いている従順な気持ちを呼び起こすことにした。
「宮藤さん、もう一度だけ訊きます。あなたは他のみんなと仲良くやっていけるわよね?」
 子犬は優しくしてくれる者のあとをついてくる。しかしそれだけでは友好な関係を築くには至らない。
 間違ったことをしたときに厳しく叱ることで子犬は初めて守らなければならない規範を意識することができる。
 ペットと同列に見るわけではないけれど、それは部下の教育にも同じことが言えるのだ。
 優しく、厳しく教えられた子はちゃんと目上の者の言うことを尊ぶようになる。
 熱心に教育を施してあげた宮藤さんもご多分に漏れず、
「はぁ、はひ……なかよく、できます、ぅ……」
 ちゃんとわたしの気持ちが伝わっていた。
 わたしは最後の仕上げとしてズボン上の突起を叱っていた指をその内側に潜り込ませた。
 教育は優しく接し、厳しく叱り、そしてよくできたときには褒めてあげることが大切だ。
 褒められて嬉しくない子はいない。
 どうすれば褒められるのか、何をしたら怒られるのかを明確に示してあげることで相手は学び、成長していくのだ。
 水が漏れて大変なことになっているズボンのなか、ひときわ熱く火照っている切れ目のさらに深奥、宮藤さんの中心部に指をうずめていく。
 くちゅ、といやらしい音が聞こえた。まるで熱された水飴の壷に指を入れているような感触。すこし指を曲げただけでどろっとした粘液が指にまとわりついてきた。
 宮藤さんのお尻が主人に懐く子犬みたいに、わたしの下腹部に擦り付いてくる。

「ぁは、みーな、ちゅうさ……」
 宮藤さんはそれこそ犬のように舌を垂らし、虚ろな目でわたしを求めていた。
 かわいい部下の要求にわたしは差し出された彼女の舌を吸い上げ、かるく歯を立てて噛んであげた。
 血が滲まない程度に優しく、狼と犬がじゃれあうような戯れごと。
 宮藤さんのなかに埋もれた指をゆっくり出し入れする。
 絡みつく体液が立てる水音をBGMにして窮屈な内壁を押し広げていく。
 やわらかい肉の空間をくすぐるように指先でこすってあげた。途端に宮藤さんの全身が大きく震え、完全に体をくの字に折り曲げてしまった。
「あっ……ん、ぁは……ひぅ、んっ……」
 汗で髪の毛が張り付いたうなじを舐め上げ、首筋にキスをする。
 指の動きに合わせて返ってくる反応が過敏すぎる。どうやら限界が近いようだ。
 息をするのも苦しそうな上に狭苦しい小径がわたしの指をきゅうきゅう締め付けてくる。
 わたしは指の動きを加速させ、彼女の内部のあらゆる箇所をいっきに刺激した。
「あっ、ぃ、ぁくぅ、ぁああっ――――」
 ガクガクと体を震わし、自分の脚で立っていることもままならず、宮藤さんは膝から崩れ落ちてしまった。
 小刻みに全身を震わせながらペタンと床に座り込む。
 一拍おいてから宮藤さんを中心に黒い染みが広がっていった。
 かすかなアンモニア臭からわたしはその液体の正体を把握した。
 ご褒美を与えた矢先にさらなる醜態。けれど今回は大目に見てあげることにしよう。
 宮藤さんの肩に手を置き、最初のときのようにうしろから包むように抱きしめる。
 耳元に口を近づけ、ゆっくり、言い聞かせるようにささやいた。
「もう二度と喧嘩なんてしてはダメよ。わたしたちは家族なのだから、みんなと仲良くしましょうね」
「…………ぃ」
「大きな声でお返事しましょうね、宮藤芳佳さん?」
「……は……ぃ」
 わたしのお仕置きは功を奏したようだ。
 あんなに頑固だった宮藤さんがわたしの言葉にかすかな頷きを返してくれている。これでもう仲間同士のあいだで喧嘩が起こることはないだろう。
 わたしは嬉しさのあまり宮藤さんの首筋に口づけし、優しく犬歯を突き立てた。



 おしまい


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