キスも訓練のうち?


「リーネちゃん、パラソルはこの辺りでいいかな?」
「うん。そこでいいよ」

ここは基地から少し離れた場所に位置する海岸。
今日はミーナ中佐の提案で、501のみんなで海水浴に来ています。
珍しく、私と芳佳ちゃんも訓練じゃない正式な休息を貰えたので、
隊のみんなにアイスティーを振舞う事にしました。

「はい、どうぞエイラさん」
「おお、悪いなリーネ」
氷がいっぱい入ったガラスのグラスに基地から持ってきた紅茶の入ったポットを注げば、簡易なアイスティーの出来上がり。
エイラさんは私からグラスを受け取ると、それを一気に飲み干してくれた。
「うん、美味い。おかわり貰えるか? あっ、それとは別にもう1杯」
「サーニャちゃんの分ですね。はい、どうぞ」
エイラさんは私からグラスを2杯受け取ると、浜辺で佇んでいるサーニャちゃんのもとへと駆け寄っていく。
「わぁ、リーネちゃんすごいなぁ。お店の人みたい」
「え? これくらい普通だよ」
「そんな事ないよ。注ぐのだって私より全然上手だし……それにこのアイスティー、リーネちゃんの優しい気持ちがいっぱい詰まってて、
本当に美味しいよ。私にとっては世界一のアイスティーだよ」
と、聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞をさらっと言い切る芳佳ちゃん。
もう、そんな事言われたら芳佳ちゃんの顔、直視できないよ。
「え? あ、ありがと……」
私は胸をドキドキさせながら、隣の芳佳ちゃんにそう呟いた。
私の身体が今熱いのは多分、照りつける太陽のせいだけじゃないと思います……

――それからしばらくの間、私と芳佳ちゃんは折りたたみ式の椅子に座って隊のみんなの様子を眺めていた。
シャーリーさんとルッキーニちゃんはペリーヌさんを誘って、ビーチバレーをやろうとしているみたい。
そこから少し離れたところで、バルクホルン大尉とハルトマン中尉が水を掛け合って遊んでいるのが見える。
(というより、バルクホルン大尉がハルトマン中尉に一方的に水を掛けられてるようにも見えます。)
そして、その様子を微笑ましそうに見守るミーナ中佐。
あれ? 坂本少佐は……どこ行ったんだろう。
素潜りの練習でもしてるのかな。

「ねぇ、芳佳ちゃん」
「なに?」
「その……2人きりだね」
「そうだね」
芳佳ちゃんとは日頃から常に一緒にいるけど、本当の意味での2人きりの時間は結構貴重だ。
だから、こういう時にこそ色々お話をしたいんだけど何を話せばいいのかな……?
「あっ、また揺れた!!」
「へ? どうしたの、芳佳ちゃん?」
芳佳ちゃんが急に大声をあげたのが気になり、私は彼女の視線の先を追ってみた。

「行くぞ、ルッキーニ! それ~!」
芳佳ちゃんの視線の先に見えたのはシャーリーさんの姿。
芳佳ちゃんが言ってた揺れたものってシャーリーさんの胸の事だったんだ……
「ねぇリーネちゃん、見た? 良い揺れっぷりだったね~」
「芳佳ちゃん、さっきからずっとシャーリーさんの事見てたの?」
「だって、すごいんだよ! シャーリーさんがビーチボールを投げるたびにおっぱいがぷるんぷるん揺れて……」
と、目をキラキラさせながら熱心にシャーリーさんの胸の魅力を語る芳佳ちゃん。
芳佳ちゃんが女の子の胸に並々ならぬ執着を持ってるのは知ってたけど、
2人きりの時にこうも熱心にシャーリーさんの胸について語られると、少しだけジェラシーを感じてしまう。

「芳佳ちゃんは私よりシャーリーさんの事が気になるんだ……」
本当はそれ程怒ってないんだけど、私はわざとらしく頬を膨らませて不機嫌なフリをしてみる。
「そ、そんな事ないよ! そりゃ、確かにシャーリーさんのおっぱいは魅力的だけど、私にとってはリーネちゃんの
おっぱいが一番で……違う、何言ってんだろ私……だからね、えーっと……」
私の反応を見て、芳佳ちゃんは悪戯がバレた子供のように慌てふためく。
ふふっ、慌ててる芳佳ちゃんとっても可愛いな。
「……気を悪くしたならごめんね。おっぱいとか関係なしに私、リーネちゃんの事が大好きだよ。
誰にでも優しいところも、射撃が上手なところも、三つ編みの髪も、縞々のソックスも、可愛らしいズボンも、
ネコちゃんの耳と尻尾も全部……私の事、許してくれる?」
芳佳ちゃんが上目遣いになりながら、私にそう訊ねてきた。
もう、その仕草は反則だよ……

「いいよ、許してあげる」
私は芳佳ちゃんを自分のもとに引き寄せて、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねる。
「リーネちゃん……あぅ」
「芳佳ちゃん、私も大好き……んっ」
私たちがしばらくの間唇を重ね合っていると、不意に聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「2人とも、冷たいお茶を一杯貰えるか」
「坂本少佐!?」
「坂本さん!?」
坂本少佐の声を聞いて私たちは、思わず飛び上がりそうになる。
い、いつからそこにいたんですか!?
坂本少佐は、驚いてる私たちの事なんておかまいなしに言葉を続ける。
「いや~、休息の時にでも訓練とは感心したぞ」
「く、訓練……?」
「人工呼吸の練習をしていたんだろう? 私としては、どちらかが仰向けになったほうがより訓練らしくなると思うがな! はっはっは!」
「「ええ!?」」
「さて、もう一泳ぎしてくるとしよう」
少佐は私が注いだアイスティーを一気に飲み干すと、海岸のほうへと駆けていった。
……今の発言、少佐なりの冗談だったのか、それとも素だったのかな。

「ねぇ、リーネちゃん」
少佐が去ってから少しして、芳佳ちゃんが口を開いた。
「なに?」
「続き、する? その、訓練の……」
「……うん」

私はコクリと頷き、芳佳ちゃんと、坂本少佐が言うところの”訓練”を再開させるのでした。

~Fin~


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