life


「では、この目薬を点しますので、上を向いて下さいね」
「こうか」
 医務室でのやり取り。美緒は定期的な健康診断のついで、普段酷使している目の検査を行う事となった。
「この目薬は瞳孔を一時的に広げるもので、数時間で元に戻ります。暫く眩しいかと思いますが……」
「分かった。検査は手短に頼む」
「はい。では……」
 医師と看護婦が検査を開始した。

 検査そのものは数分で終わったが……「絶えず瞳孔が開いている」事に戸惑う美緒。
「うーむ……普段薄暗い廊下でさえこんなに眩しく、歪んで見えるとは」
 外をちらりと見る。天気が良く強い陽射しが辺りを照らす。
 照り返しを見ただけでくらくらする。
「うおっまぶしっ……」
 壁に手を付く。はあ、と息を整える。
「あら美緒どうしたの、具合悪そうだけど」
「その声は……ミーナか?」
 美緒は振り向いたが、視界がぼやけ何もかもがぼんやりとしか見えないのでミーナの顔の輪郭を捉えるのがせいぜい。
「あら、今日は健康診断と目の検査じゃなかった?」
「それがこの有様だ。……すまんミーナ、頼みがある」
「何かしら、私で良ければ……っ!?」
 美緒は言うより早く、ミーナに全力でしがみついていた。
 ミーナの身体、服、髪、そして肌を感じると、やっと安心したかの様にふっと笑った。
「美緒、大丈夫? 医務室で横になっていた方が……」
「一緒についていてくれれば良いんだ。わざわざ医務室の厄介になる必要もない」
「なら、良いけど……でもどうするの? そんな具合で」
「まあ、今ネウロイが来たら、多分私は役に立たんな」
「それどころじゃないと思うわ」
「ともかく、少しの間だけで良いんだ、私の目の代わりになってくれ」
「そんなにしがみつかれても、大丈夫よ美緒」
 くすっと笑うミーナ。美緒の手を取り、そっと引っ張る。
「今、私を笑ったな?」
 ちょっと不満そうな美緒。
「だって、いつもは背筋をぴんと張って堂々と歩いている貴方が、まるで……」
「まるで、何だ」
「貴方の名誉の為に、言わないでおいてあげるわ」
「……まあいい。とりあえずどうしたものか」
「私は休憩がてら食事でもと思ったんだけど、美緒は?」
「私も付き合おう」
「でもそんな目の見え方で、食事大丈夫なの?」
「なぁに、何事もチャレンジだ」
 無理に笑ってみせる美緒。しかし窓際から差し込む陽の光をもろに見てしまい、
「ぐあっ」
 と呻いてしまう。
「何だか、貴方吸血鬼みたいよ?」
 苦笑するミーナ。

「今日のお昼はサンドイッチですよ」
 リーネが皿を差し出す。
「ごめんなさいね、食べるのが遅くなってしまって。片付けも遅くなって大変でしょう?」
 職務が長引いたせいで、食堂に居るのはミーナ、そしてついてきた美緒だけ。
「いいえ、そんなに手の込んだ料理ではないですから。芳佳ちゃんも手伝ってくれてますし」
「ほほう、宮藤がか、感心感心」
「で、私は良いとして、貴方大丈夫なの?」
「試しにやってみよう」
 ぼやける視界でサンドイッチを一切れ持つ……つもりが、感覚を間違え中の具だけを掴んでしまう。
「ちょ、ちょっと?」
「だ、大丈夫だ。そうだ、飲み物を」
 横に置かれたマグカップに手を伸ばし、そのまま勢いよく転がしてしまう。中身がだーっとテーブルに流れ出た。
 リーネが慌ててフォローする。
「大丈夫です、すぐ拭きます!」
「坂本さん、どうしたんですか? なんか目、辛そうですけど」
「検査でこうなっただけだ。暫くすれば元に戻る! 心配ない!」
「でも、今は酷いありさまですよね」
「ぐっ……」
 強がってみたものの痛い所を突かれ、美緒は答えに窮した。
「リーネさんに宮藤さん、私達は大丈夫よ。悪いけど、替えの飲み物を持ってきて貰える?」
「はい、只今」
「そう言えば美緒、さっき言ったわよね? 貴方の目の代わりになるって」
「ああ」
「だから今は目を瞑っていても大丈夫よ。はい、あーんして」
「そ、それは……宮藤達が見ていないか」
「大丈夫。はい、あーんして」
「……あ、あーん。……ふむ、まあ、悪くは、いや、その」
 照れと困惑が混じった顔の美緒、笑顔のミーナ。
 美緒とこうしているのが嬉しいのか、それとも美緒で遊んでいるのか。
 のほほんとした、二人の食事は暫く続いた。ゆっくりと、そしてしっかりと。

end


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ